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はじめに

「心電図検定3級って、どのくらい難しいの?」「放射線技師でも取れる?」——そんな疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

放射線技師にとって、心電図の知識は意外と使う場面が多い。CT・MRI検査における心電図同期、造影検査時のモニタリング、放射線治療における心臓線量管理など、心電図が読めると「あ、これ知ってる」という場面が確実に増えます。

本記事では、心電図検定3級の概要から具体的な学習方法まで、放射線技師の視点を交えて解説します。

本記事の内容

  • 心電図検定3級の概要と合格率
  • 心電図の基本波形と判読のポイント
  • 3級で出題される重要な不整脈パターン
  • 効率的な学習方法と推奨教材
  • 臨床現場における心電図知識の活用

心電図検定3級の概要

心電図検定は、日本不整脈心電学会が主催する心電図判読能力の認定試験[ 1 ]。

試験基本情報

項目内容
主催日本不整脈心電学会
レベル心電図の基礎〜中等度の判読力を有する者
主な対象者一般臨床医、循環器勤務メディカルプロフェッショナル
試験形式マークシート方式
出題数50問
試験時間90分
合格率74.7%(2024年度実績)
受験料6,000円

2024年の第10回検定では、出願者7,238人、受検者6,398人のうち合格者は4,778人であった[ 1 ]。合格率約75%——しっかり対策すれば十分に手が届く試験といえます。

3級の出題範囲

3級では、12誘導心電図を題材として以下が出題

  • 基本的な心電図所見
  • 危険な不整脈の判読
  • 臨床現場で遭遇頻度の高い不整脈

体感としては、基礎的な問題が約7割、応用問題が約3割といったところ

心電図の基礎知識

心電図の原理

心電図(ECG: Electrocardiogram)は、心臓の電気的活動を体表面から記録したものです。心臓は電気信号によって規則正しく収縮・拡張を繰り返しており、この電気活動を四肢および胸部に装着した電極で記録します。

12誘導心電図

標準12誘導心電図では、以下の12種類の波形を記録

肢誘導(6誘導)

  • 標準肢誘導:Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ
  • 単極肢誘導:aVR、aVL、aVF

胸部誘導(6誘導)

  • V1〜V6

これらの誘導を組み合わせることで、心臓を立体的に観察することが可能となるのです。

心臓CT検査や心臓MRI検査で心電図同期を行う際、実際に技師が患者に電極を貼ることが多い。胸部誘導の位置を正確に理解していると、ポジショニングの精度や検査に対する理解度も上がる——地味だが確実に役立つ知識だと感じます。

夜間の心カテ対応だと放射線技師が12誘導を準備してる施設もあるかもしれません。

心電図波形の基本

基本波形の構成

心電図は主にP波、QRS波、T波の3つの波で構成されます。

波形意味正常値
P波心房の興奮(脱分極)幅:0.10秒以下、高さ:0.25mV以下
PQ間隔心房から心室への伝導時間0.12〜0.20秒
QRS波心室の興奮(脱分極)幅:0.10秒以下
ST部分心室全体の脱分極完了基線と同じ高さ
T波心室の回復(再分極)QRS波と同じ方向
QT間隔心室の活動電位持続時間補正QTc:0.44秒以下

各波形の臨床的意義

P波(心房の興奮)

P波は心房の脱分極を表す。洞結節からの電気刺激が心房を通過する際に生じる波。

確認ポイント

  • P波の有無(洞調律の判定)
  • 形態の一定性(心房異常の有無)
  • Ⅱ誘導における極性(通常は陽性)

QRS波(心室の興奮)

QRS波は心室の脱分極を表し、心電図において最も振幅が大きい波形。いわば心電図の「主役」といえる存在です。

用語の定義

  • Q波:最初の下向きの波
  • R波:上向きの波
  • S波:R波の後の下向きの波

なお、すべての心電図にQ波やS波が存在するわけではなく。小文字(q, r, s)は振幅が小さい波、大文字(Q, R, S)は振幅が大きい波を示します。

T波(心室の回復)

T波は心室の再分極を表し、興奮した心室が元の状態に戻る過程を反映。

異常所見の例

  • 陰性T波(冠性T波):心筋梗塞、心肥大
  • 尖鋭T波:高カリウム血症、急性心筋梗塞超急性期
  • 平低T波:心筋虚血、電解質異常

心拍数の計算方法

心電図から心拍数を求める方法は、3級において必須の基本技能です。試験でも頻出なので、確実に押さえておきたい。

計算方法①:RR間隔による算出

心電図の記録紙は通常、紙送り速度25mm/秒で記録される。

  • 1mm(小マス1個)= 0.04秒
  • 5mm(大マス1個)= 0.2秒

計算式:

心拍数(bpm)= 60 ÷ RR間隔(秒)

計算方法②:300の法則

R波が太線(5mmごとの線)に重なる波形を探し、次のR波までの太線の数で計算する。これを覚えておくと、一瞬で概算できて便利。

太線の数心拍数
1300 bpm
2150 bpm
3100 bpm
475 bpm
560 bpm
650 bpm

試験では定規またはデバイダーの持ち込みが可能。メディカルデバイダーがあると、RR間隔の測定がグッと楽に。

3級頻出の不整脈パターン

心電図検定3級では、以下の不整脈の判読が重要である。ここが得点源になるので、しっかり覚えておきましょう。

1. 期外収縮(Premature Contraction)

期外収縮は最も頻繁に認められる不整脈であり、30歳を超えるとほとんどの成人に出現する[ 2 ]。つまり、ほぼ全員が持っている「普通の不整脈」ともいえる。

上室性期外収縮(SVPC/PAC)

  • 特徴:P波が早いタイミングで出現
  • QRS波:正常と同形態(幅が狭い)
  • 臨床的意義:多くは良性、稀に心房細動へ移行

心室性期外収縮(PVC/VPC)

  • 特徴:P波がない、QRS波が幅広い
  • QRS波:正常と異なる形態(幅が広い)
  • 危険な所見:連発、多形性、R on T

Lown分類(重症度分類):

Grade所見
0PVCなし
1散発性PVC(30回/時未満)
2頻発性PVC(30回/時以上)
3多形性PVC
4a2連発
4b3連発以上
5R on T型

2. 心房細動(AF:Atrial Fibrillation)

心房細動は日本における推定患者数が100万人を超える、いわば「国民病」ともいえる不整脈である[ 3 ]。

心電図の特徴

  • P波の消失(f波:細かく不規則な基線の動揺)
  • RR間隔の完全不規則(絶対性不整脈)
  • QRS波は通常正常

臨床的重要性

  • 脳梗塞リスクが約5倍に上昇[ 3 ]
  • 心不全の原因となる
  • 高齢者に多い(80代男性:8.10%、80代女性:3.52%)

注意すべきは、心房細動患者の約4割は無症状という点。健診の心電図で「たまたま見つかる」ことも多いため、見逃さない目を養っておきたい。

3. 心房粗動(AFL:Atrial Flutter)

心電図の特徴

  • P波の消失(F波:鋸歯状の規則的な波)
  • 心房興奮は250〜350回/分
  • 通常2:1〜4:1で心室に伝導

4. 房室ブロック

房室ブロックは、心房から心室への電気伝導が障害される状態[ 2 ]。程度によってⅠ度〜Ⅲ度に分類されます。

Ⅰ度房室ブロック

  • 特徴:PQ間隔が0.20秒以上に延長
  • 臨床的意義:軽度、多くは無症状

Ⅱ度房室ブロック

Wenckebach型(Mobitz I型):

  • PQ間隔が徐々に延長し、QRS波が脱落
  • リズムに「周期性」があるのが特徴

Mobitz II型:

  • PQ間隔は一定で、突然QRS波が脱落
  • 完全房室ブロックへの移行リスクあり——要注意

Ⅲ度房室ブロック(完全房室ブロック)

  • 特徴:P波とQRS波が完全に解離。心房興奮がブロックされ心室に伝導されず、心室は心室調律により興奮している状態。
  • 臨床的意義:循環動態が落ち着いていても急激に増悪する恐れあり、緊急性高。ペースメーカー適応。原因としては心筋梗塞がある。

5. 致死性不整脈——これは絶対に見逃すな

心室頻拍(VT:Ventricular Tachycardia)

  • 定義:心室性期外収縮が3拍以上連続
  • 心拍数:150〜200回/分程度
  • QRS波:幅広い(0.12秒以上)
  • 緊急性:高い(心室細動へ移行リスク)

心室細動(VF:Ventricular Fibrillation)

  • 特徴:P波もQRS波も識別不能な不規則波形
  • 臨床的意義:心停止状態、直ちに除細動が必要
  • 対応:AEDによる電気的除細動

心室細動は心臓突然死の原因の約8割を占める[ 2 ]。この波形を見たら、迷わず緊急対応。試験でも臨床でも、最優先で覚えるべき波形です。

ST変化の判読

ST上昇

ST上昇は貫壁性虚血(心筋梗塞)の重要な所見。

判定基準:

  • 2誘導以上で1mm以上のST上昇
  • 対側誘導でのST低下(鏡面像変化)

梗塞部位と誘導の対応

梗塞部位ST上昇誘導責任血管
前壁V1〜V4左前下行枝
側壁Ⅰ、aVL、V5、V6左回旋枝
下壁Ⅱ、Ⅲ、aVF右冠動脈

この対応表、試験でも臨床でも頻出。しっかり頭に入れておきましょう。

ST低下

ST低下は心内膜下虚血を示唆する。

  • 労作性狭心症の発作時
  • 不安定狭心症
  • 非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)

効率的な学習方法

STEP 1:基礎固め(1〜2週間)

推奨教材

習得目標

  • 基本波形(P-QRS-T)の意味
  • 正常心電図の特徴
  • 心拍数の計算方法

まずはここをしっかり固める。基礎なくして応用なし。

STEP 2:公式問題集による演習(2〜3週間)

必須教材

学習方法

  1. 全問題を通して解く(1周目)
  2. 解説を精読する
  3. 誤答問題をノートにまとめる
  4. 2〜3周繰り返す

公式問題集を3周すれば、試験の7〜8割は自信を持って解答できるレベルに到達するはずです。

逆に言えば、公式問題集を制する者が試験を制するという事です。

STEP 3:弱点補強(1週間)

追加推奨教材

動画教材

試験当日の準備

持ち物:

  • 受験票
  • 筆記用具
  • メディカルデバイダー(または定規)
  • 時計

時間配分:

  • 50問を90分で解答
  • 1問あたり約1分40秒
  • 分からない問題は印をつけて後回し——深追い厳禁

放射線技師における心電図知識の活用

CT検査

心臓CT(冠動脈CT)

  • 心電図同期撮影にモニタリングは必須
  • 不整脈は画質低下の原因となる
  • 期外収縮の出現タイミング予測

造影CT検査

  • 心房細動患者は心機能低下の可能性
  • 造影剤注入速度の調整が必要な場合がある

放射線治療

心臓線量管理

  • 胸部・縦隔の照射では心臓が照射野に含まれる
  • 心電図による照射中の心機能モニタリング
  • 照射野設定の参考情報

救急対応

放射線技師も救急医療の一員です。いざという時のために、以下は押さえておきましょう

  • 致死性不整脈(VT、VF)の波形
  • 急性心筋梗塞の心電図所見
  • 緊急時の連絡体制

疫学データ

心房細動の年齢別有病率

年齢男性女性
30代0.06%0.01%
40代0.23%0.02%
50代0.99%0.08%
60代2.97%0.44%
70代5.61%1.31%
80代8.10%3.52%

日本人間ドック学会誌掲載データ[ 4 ]

年齢とともに有病率が上昇するのが一目瞭然。高齢化社会において、心房細動の重要性は増す一方。

心房細動と脳梗塞リスク

心房細動患者の脳卒中リスクは約5倍に上昇する[ 3 ]。

  • 日本の心房細動推定患者数:約100〜170万人
  • 2030年には108万人を超えると予測
  • 心原性脳塞栓症(脳梗塞の重症型)の主要原因

まとめ

合格のための3つのポイント

  1. 基礎の習得:基本波形(P-QRS-T)の理解、正常値の暗記、心拍数計算の習得
  2. 公式問題集の反復:最低3周の演習、解説の精読、誤答のノートまとめ
  3. 致死性不整脈の確実な記憶:心室細動(VF)、心室頻拍(VT)、完全房室ブロック

放射線技師としての意義

心電図検定3級の取得により、以下の効果が期待できる

  • CT・MRI検査・放射線治療における心電図同期撮影・モニタリングの理解向上
  • 多職種連携におけるコミュニケーション能力の向上
  • キャリアアップに寄与する客観的資格
  • 不整脈を有する患者への適切な対応

心電図が読めると、日々の業務の「解像度」が上がる。ぜひチャレンジしてみて下さい。

心電図検定3級 理解度確認問題

心電図検定3級 理解度確認問題

矢印をクリックすると解答が表示されます。

P波です。

P波は心房の脱分極(興奮)を表します。正常なP波は、Ⅱ誘導で上向き(陽性)で、幅0.12秒以下、高さ0.25mV以下です。

補足: QRS波群は心室の脱分極、T波は心室の再分極を表します。

60〜100回/分です。

60回/分未満を徐脈、100回/分を超えると頻脈と呼びます。ただし、スポーツ選手などでは安静時50回/分程度でも正常なことがあります。

6誘導です。

四肢誘導には以下が含まれます:

双極誘導: Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ誘導(3誘導)

単極誘導: aVR、aVL、aVF誘導(3誘導)

補足: 胸部誘導はV1〜V6の6誘導で、合計12誘導となります。

0.12〜0.20秒(3〜5mm)です。

PQ間隔は、心房の興奮開始から心室の興奮開始までの時間を表し、房室結節での伝導時間を反映します。

• 0.20秒超:Ⅰ度房室ブロック

• 0.12秒未満:WPW症候群などの副伝導路の可能性

脚ブロックまたは心室内伝導障害が疑われます。

正常なQRS幅は0.06〜0.10秒です。0.12秒以上に延長する主な原因:

右脚ブロック(RBBB)

左脚ブロック(LBBB)

心室性期外収縮(PVC)

心室頻拍

赤色です。

標準的な電極の色配置(覚え方:「赤黄緑黒」):

右手:赤(R) – Right(右)のR

左手:黄(L) – Left(左)のL

左足:緑(F) – Foot(足)のF

右足:黒(N) – アース電極

急性心筋梗塞(AMI)です。

ST上昇は心筋虚血または壊死の重要な所見です。特に:

隣接する2誘導以上でST上昇

胸痛などの症状を伴う場合

は、直ちに医師に報告し、緊急対応が必要です。

補足: ST低下は心筋虚血、狭心症などで見られます。

P波が消失し、f波(細動波)が出現、RR間隔が不整

心房細動の主な特徴:

• P波が消失

• 基線の細かい揺れ(f波、350〜600回/分)

絶対性不整脈(RR間隔が完全に不規則)

• QRS波群は正常幅(心室の興奮は正常)

重要: 血栓塞栓症のリスクがあるため、抗凝固療法が必要な場合があります。

P波とQRS波群が完全に解離している

完全房室ブロックの特徴:

• P波とQRS波群の間に一定の関係がない(房室解離

• P-P間隔は規則的

• R-R間隔も規則的だが、P-P間隔とは無関係

• 心拍数は通常40〜60回/分程度(補充収縮による)

緊急性: ペースメーカー植込みの適応となることが多い

以下の対処を順に試みます:

1. 患者さんへの声かけ

• 「力を抜いてリラックスしてください」

• 「会話は控えてください」

2. 体位の工夫

• 膝の下に枕を入れる

• 腕の下にタオルを敷く

3. 電極の確認

• 電極の密着度を確認

• 必要に応じて電極を貼り直す

4. 環境の確認

• 室温が適切か(寒すぎないか)

• 患者さんの不安を軽減

学習のポイント

これらの問題は、心電図検定3級で頻出する基本的な知識です。全問正解を目指して、繰り返し復習しましょう。実際の検定では、波形判読問題も出題されるため、多くの症例を見て経験を積むことが重要です。

参考文献

[ 1 ] 日本不整脈心電学会. 心電図検定公式サイト. 
https://www.ecg-exam.org/

[ 2 ] 日本循環器学会/日本不整脈心電学会. 不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン(2022年改訂版). Circ J. 2022;86(Suppl I):1-84.

[ 3 ] 日本循環器学会/日本不整脈心電学会. 不整脈薬物治療ガイドライン(2020年改訂版). Circ J. 2020;84(11):2061-2143.

[ 4 ] 日本人間ドック学会. 標準 12 誘導心電図検診判定マニュアル(2023 年度版).

[5] 厚生労働省. 労働安全衛生法に基づく定期健康診断.

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「放射線技師ラボ」を運営する診療放射線技師のゆんです。 資格取得、転職、副業などのキャリア情報と、検査を受ける患者さん向けの安心情報を発信しています。業務効率化アプリの開発もしています。