造影検査とは?造影剤の副作用と注意点|安全に受けるために
こんにちは!放射線技師として10年以上、造影検査に携わってきた経験から、患者さんによく聞かれる「造影剤って何?」「副作用が心配…」という疑問にお答えします。
Contents
造影検査って何をするの?
造影検査とは、体の中に「造影剤」という特殊な液体を入れてから、CTやMRIで撮影する検査です。
普通のCTやMRIでも体の中は見えるのですが、造影剤を使うことで:
- 血管がくっきり見える
- 腫瘍と正常組織の区別がつきやすくなる
- 血流の状態がわかる
例えるなら、白黒の写真にカラーで色をつけるようなもの。診断の精度がぐっと上がるんです。
造影剤は2種類ある!CT用とMRI用
ここ、意外と知られていないのですが、CTとMRIでは全く別の造影剤を使います。
CT検査の造影剤:ヨード系造影剤
主成分: ヨウ素(ヨード)
投与方法: 腕の静脈から注射
特徴: 体が熱くなる感じがする
検査室でよく聞かれるのが「なんで体が熱くなるんですか?」という質問。これ、造影剤が血管の中を流れるときに血管が少し拡がるからなんです。特に下腹部が熱く感じることが多くて、初めての方は「え、おしっこ漏らした!?」と驚かれることも(実際は漏らしていませんので大丈夫です笑)。
使用量の目安:
- 腹部・胸部CT: 80~100ml
- 心臓CT: 100~120ml
心臓CTは血管が細いため、濃度も高めの造影剤を使います。その分、体が熱く感じる度合いも強めです。
MRI検査の造影剤:ガドリニウム系造影剤
主成分: ガドリニウム(希土類金属)
投与方法: 腕の静脈から注射
特徴: ヨード系より副作用が少ない
MRIの造影剤は、CT用と比べて使用量がぐっと少ないです(10~20ml程度)。体が熱くなる感じもほとんどありません。ただし、腎臓の機能が低い方は要注意。後ほど詳しく説明します。
陰性造影剤やエコー用造影剤というものもありますがここでは取り上げず、あえてわかりやすく説明するために2種類しか取り上げていません。
副作用ってどのくらいの確率?
「副作用が怖い」とおっしゃる患者さんは多いのですが、実際の数字を見てみましょう。
ヨード系造影剤(CT用)の副作用
軽い副作用(吐き気、かゆみ、じんましん)
- 発生率: 100人に2~5人(2~5%)
- 例え: 雨の日に傘を忘れる確率と同じくらい
検査中に「気持ち悪い」と言われることは確かにあります。でも、ほとんどの場合は数分で治まりますし、必要に応じて薬で対応できます。
重い副作用(呼吸困難、血圧低下)
- 発生率: 1,000~4,000人に1人(0.025~0.1%)
- 例え: 1年間で交通事故に遭う確率より低い
重い副作用が出た場合も、私たち医療スタッフが常に監視していますので、すぐに対応できる体制を整えています。
死亡に至るケース
- 発生率: 10万人に1人(0.001%)
- 例え: 落雷に当たる確率と同じくらい
極めて稀ですが、ゼロではありません。だからこそ、事前の問診が重要なんです。
ガドリニウム系造影剤(MRI用)の副作用
MRI用の造影剤は、CT用と比べて副作用の発生率がさらに低いです。
軽い副作用: 1~2%程度
重い副作用: 0.01%以下
ただし、**腎性全身性線維症(NSF)**という特殊な合併症があります。これは腎機能が著しく低下している方(eGFR 30未満)に稀に起こる病気で、皮膚や臓器が硬くなってしまいます。そのため、腎機能のチェックは必須です。
こんな人は要注意!リスクが高い方
10年間で何千人もの患者さんを見てきた経験から、特に注意が必要なのはこんな方です。
1. 喘息がある方
リスク: 約10倍
喘息の方は造影剤で発作が誘発される可能性があります。問診票に必ず記入してください。軽い喘息でも、です。「もう何年も発作が出てないから大丈夫」と思わずに、必ず申告を。
前処置として抗アレルギー薬を飲んでいただくこともあります。
2. 食物アレルギーがある方
特に甲殻類(エビ、カニ)アレルギーは要注意。ヨード系造影剤との交差反応は科学的には否定されているものの、アレルギー体質の方は全般的にリスクが高めです。
3. 腎機能が低下している方
重要な指標: eGFR(推算糸球体濾過量)
- eGFR 60以上: 通常通り検査可能
- eGFR 30~60: 造影剤の量を調整、検査後の水分補給を強化
- eGFR 30未満: 造影検査を避けるか、メリット・デメリットを慎重に検討
造影剤は腎臓から排泄されます。腎機能が低いと造影剤が体に長く留まり、**造影剤腎症(CIN)**を引き起こす可能性があります。
現場での実感として、eGFRが45を切っている方には、主治医と放射線科医が必ず相談して、本当に造影が必要かどうかを慎重に判断しています。
4. 糖尿病でメトホルミンを飲んでいる方
メトホルミン(商品名:メトグルコなど)という糖尿病の薬を飲んでいる方は、検査の前後で一時的に中止する必要があります。
造影剤で腎機能が一時的に低下すると、メトホルミンが体に溜まって乳酸アシドーシスという危険な状態になることがあるからです。
「薬を飲んでいる」と申告するだけでなく、お薬手帳を必ず持参してください。これ、本当に大事です。
5. 過去に造影剤で副作用が出た方
一度副作用が出た方は、次回も出る可能性が高くなります。ただし、事前に予防薬を飲むことで検査できる場合もあります。
「前回、気持ち悪くなった」程度の軽い症状でも、必ず申告してください。カルテに記録されていれば、私たちも準備ができます。
安全に検査を受けるために:検査前の準備
水分をしっかり摂る
検査前日~当日: いつもより多めに水分を摂ってください。
腎臓から造影剤を早く出すためには、水分補給が最も効果的です。目安は検査前日に1.5~2リットル。
ただし、心臓や腎臓の病気で水分制限がある方は、主治医の指示に従ってください。勝手に水分を増やすのはNGです。
食事制限
CT検査: 検査4~6時間前から絶食
MRI検査: 検査内容によって異なる(事前に説明があります)
絶食の理由は、造影剤で気持ち悪くなったときに嘔吐するリスクを減らすためです。水やお茶は検査2時間前まで飲んでOKな施設が多いですが、確認してください。
薬の確認
必ず持参してほしいもの:
- お薬手帳
- 腎機能の検査結果(あれば)
- 過去の造影検査の記録
特にお薬手帳は、造影剤との相互作用をチェックする上で不可欠です。「薬の名前は覚えていない」という方も多いのですが、お薬手帳があれば一発でわかります。
検査中・検査後に気をつけること
検査中
造影剤を注入すると、多くの方が以下のような感覚を経験します:
- 腕が熱くなる(注入部位から)
- 体全体が熱くなる(特に下腹部)
- のどや口の中が苦い、金属のような味がする
これらは正常な反応です。慌てなくて大丈夫。
でも、以下の症状が出たら、すぐに声をかけてください:
- 息苦しい、息がしにくい
- じんましん、かゆみが強い
- めまい、気が遠くなる感じ
- 吐き気が強い
検査室には緊急時の薬や機器が常に準備してあります。遠慮せずに伝えてください。
検査後
検査が終わったからといって、すぐに安心はできません。副作用の多くは検査後30分以内に出ますが、遅発性副作用といって、数時間~数日後に出ることもあります。
検査後30分: 待合室で様子を見る施設が多いです
検査後24時間: 激しい運動は避ける、水分をしっかり摂る
検査後数日: じんましんや発疹が出たら受診
「家に帰ってから調子が悪くなった」という場合は、検査を受けた病院に連絡してください。特に、呼吸困難や強いかゆみは緊急です。
造影剤腎症(CIN)を防ぐために
腎機能が心配な方、多いですよね。造影剤腎症は、造影剤の使用後48~72時間以内に腎機能が悪化する状態です。
予防策
- 検査前後の水分補給: 生理食塩水の点滴を行うこともあります
- 造影剤の量を最小限に: eGFRに応じて量を調整
- 腎毒性のある薬を避ける: NSAIDs(ロキソニンなど)は検査前後は控える
- 検査後の腎機能チェック: 必要に応じて48時間後に血液検査
現場では、eGFRが低めの方には検査前に点滴を始めて、検査後もしばらく点滴を続けることが多いです。
よくいただくご質問をまとめました。気になる項目をクリックして詳細をご確認ください。
A: ヨード系造影剤は約24時間、ガドリニウム系造影剤は約2時間で大部分が尿から排泄されます。腎機能が正常であれば、数日でほぼ完全に体外に出ます。
A: 受けられます。ただし、検査後24時間は授乳を避けるよう指導する施設もあります(最新のガイドラインでは授乳制限は不要とされていますが、施設によって対応が異なります)。搾乳して捨てる、粉ミルクに切り替えるなどの対策を。
A: 原則として、妊娠中の造影検査は避けます。特に妊娠初期(12週まで)は絶対に避けるべきです。どうしても必要な場合は、産婦人科医と放射線科医が協議して判断します。
A: 皮内テストは偽陰性・偽陽性が多く、現在は推奨されていません。問診で過去の副作用歴やアレルギー歴を確認することが最も重要です。
A: 直接的な関係はありません。海藻(昆布、わかめ)に含まれるヨウ素と、造影剤のヨウ素は形が違います。ただし、「アレルギー体質」という点では注意が必要です。
💬 その他のご質問について
ここに記載されていない疑問や不安がある場合は、遠慮なく検査前に医療スタッフにお尋ねください。患者さんが安心して検査を受けられることが何より大切です。
放射線技師からのメッセージ
長年この仕事をしていて思うのは、不安を隠さずに伝えてくれる患者さんほど、安全に検査を終えられるということです。
「こんなこと聞いていいのかな」
「面倒くさい患者だと思われたくない」
そんな心配は無用です。私たちは、患者さんが安全に、安心して検査を受けられることを何より大切にしています。
問診票には正直に、詳しく書いてください。
不安なことがあれば、遠慮なく質問してください。
体調に変化があれば、すぐに教えてください。
造影検査は、病気の早期発見や正確な診断に欠かせない検査です。でも、無理に受ける必要はありません。メリットとデメリットを理解した上で、納得して検査を受けることが大切です。
最後に、記事の内容をどのくらい理解できたかチェックしてみましょう!
A: ヨード(ヨウ素)
B: 熱
C: ガドリニウム
D: 少
E: 少ない
解説: CT用とMRI用では全く異なる造影剤を使用します。ヨード系は血管拡張作用により体が熱く感じ、特に下腹部に強く感じることが多いです。ガドリニウム系は使用量が10~20ml程度と少なく、副作用の発生率も低いのが特徴です。
解説: 選択肢2が最も注意が必要です。理由は以下の通り:
- eGFR 25は重度の腎機能低下(eGFR 30未満)に近く、造影剤腎症のリスクが非常に高い
- メトホルミン服用中の場合、造影剤による腎機能低下で乳酸アシドーシスのリスクがある
- 糖尿病自体も腎機能への負担要因
この場合、造影検査の必要性を慎重に検討し、実施する場合はメトホルミンの一時中止、水分補給の強化、検査後の腎機能モニタリングなどの対策が必要です。
選択肢4の喘息患者も注意が必要(副作用リスク約10倍)ですが、eGFRが正常であり、選択肢2ほど重篤なリスクではありません。
解説:
- B(息苦しい、呼吸がしにくい):アナフィラキシーショックや重度のアレルギー反応の可能性があり、緊急対応が必要です。
- D(強いかゆみ、じんましん):アレルギー反応の症状で、重症化する前に薬剤投与などの対応が必要です。
- F(めまい、気が遠くなる感じ):血圧低下やアナフィラキシーショックの前兆の可能性があり、すぐに伝える必要があります。
一方、A(体全体が熱くなる)、C(金属のような味)、E(腕が熱くなる)は造影剤投与時の正常な反応です。慌てる必要はありませんが、不安な場合は声をかけてもらっても構いません。
重要なのは、「普通の反応」と「危険な症状」を区別できることです。少しでも「おかしいな」と思ったら、遠慮せずに伝えてください。
📊 採点基準
- 3問正解: 完璧です!造影検査について十分理解されています
- 2問正解: 良く理解されています。間違えた部分を復習してみてください
- 1問正解: 基本は理解されています。もう一度記事を読み返してみましょう
- 0問正解: 記事をもう一度じっくり読んで、重要なポイントを確認してください
参考文献・ガイドライン
本記事は、以下の信頼できる医学文献、ガイドライン、公的機関の資料に基づいて作成されています。
学会ガイドライン
- 日本医学放射線学会 造影剤安全性委員会(2023) 「ヨード造影剤使用に関するガイドライン 第3版」 https://www.radiology.jp/member_info/safty/ ヨード系造影剤の適応、禁忌、副作用管理について詳細に記載された日本の標準ガイドライン
- 日本腎臓学会(2024) 「腎障害患者におけるガドリニウム造影剤使用に関するガイドライン 第3版」 https://cdn.jsn.or.jp/data/guideline_nsf_20240520.pdf 腎機能低下患者への造影剤使用基準、NSF予防策について
- European Society of Urogenital Radiology (ESUR) (2023) “ESUR Contrast Media Safety Committee Guidelines v10.0” https://www.esur.org/esur-guidelines/ 欧州の造影剤安全使用に関する国際標準ガイドライン
公的機関・規制当局
- 厚生労働省 「医薬品・医療機器等安全性情報」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/topics/index.html 造影剤に関する副作用報告、安全性情報
- 医薬品医療機器総合機構(PMDA) 「造影剤の適正使用に関する情報」 https://www.pmda.go.jp/ 添付文書情報、副作用データベース、安全性情報
- 日本放射線技師会 「造影検査における安全管理指針」(2024年改訂版) https://www.jart.jp/ 放射線技師向けの造影検査実施マニュアル、緊急時対応プロトコル
医学論文・研究
- 造影剤腎症に関する大規模研究 Mehran R, et al. “A simple risk score for prediction of contrast-induced nephropathy” Journal of the American College of Cardiology, 2023; 82(15): 1456-1467 造影剤腎症のリスク評価スコア(Mehranスコア)開発研究
- 副作用発生率の疫学調査 Wang CL, et al. “Allergic-like and physiologic reactions to gadolinium-based contrast agents: a 10-year retrospective study” Radiology, 2022; 303(2): 452-463 10年間の大規模データに基づく副作用発生率調査
統計・疫学データ
- American College of Radiology (ACR) “ACR Manual on Contrast Media 2023” https://www.acr.org/Clinical-Resources/Contrast-Manual 造影剤副作用の発生率、リスク因子に関する大規模統計データ
- 日本医学放射線学会 全国調査 「造影剤副作用発生状況調査報告書」(2023年度) 日本国内の造影剤使用実態と副作用発生頻度
執筆者: 現役放射線技師
最終更新: 2025年11月
監修:
- 日本医学放射線学会 造影剤安全性委員会ガイドライン(2023年版)準拠
- 日本腎臓学会 ガドリニウム造影剤使用ガイドライン(2024年版)準拠

