この記事でわかること

  • PET検査の基本的な仕組みと特徴
  • 検査の流れと所要時間(約2〜3時間)
  • 費用の目安(保険適用・自費)
  • CTやMRIとの違いと使い分け
  • 得意ながん・苦手ながん
  • よくある疑問への回答(被ばく、費用、準備など)

放射線技師歴10年以上の筆者が、患者さんからよく聞かれる疑問に答えます。

【結論】PET検査の基本情報まとめ

項目内容
検査時間約2時間(待機60分+撮影15分)
痛み注射のみ(採血と同程度)
費用(3割負担)約2万〜5万円(平均3万円)
費用(自費)約10万〜20万円
絶食時間5〜6時間前から
被ばく線量約8〜10mSv(胸部CT約2回分)
得意ながん肺がん、大腸がん、甲状腺がん
苦手ながん早期胃がん、肝臓がん、前立腺がん

PET検査とは

PET(ペット)はPositron Emission Tomography(陽電子放出断層撮影)」の略です。

日本では1994年頃から本格的にがん検診として使われるようになり、2010年4月からは早期胃がんを除く多くのがんの診断で保険適用となりました。現在では全国の大学病院や総合病院で広く実施されている検査です。

最大の特徴

✅ 細胞の「働き」を見る → CTやMRIは「形」を見る
✅ 一度に全身のがんをチェック → 転移や再発の早期発見
✅ 代謝活動を画像化 → がん細胞は正常細胞の3〜8倍のブドウ糖を取り込む
✅ PET-CTで正確な位置特定 → 機能画像と形態画像の融合

CTやMRIが「建物の外観」を撮影するカメラだとすれば、PETは「建物の中で誰がどんな活動をしているか」を見られる特殊なカメラのようなものです。

主な検査目的

PET検査は主に以下の目的で実施されます:

  • がんの早期発見:症状が出る前の小さながんを発見
  • がんの病期診断:がんの進行度や転移の有無を判定
  • 治療効果判定:抗がん剤や放射線治療の効果を評価
  • 再発の早期発見:治療後の経過観察

PET検査の仕組みを解説

FDG(エフディージー)という特別なお薬

PET検査では「FDG(フルオロデオキシグルコース)」という放射性医薬品を使います。これはブドウ糖に似た物質で、フッ素18という放射性同位元素で標識されています。

がん細胞は正常な細胞よりもブドウ糖を3〜8倍も多く取り込む性質があります。これを利用して、FDGががん細胞に集まったところを画像化するのがPET検査の原理です。

ちなみに、フッ素18の半減期(放射能が半分になる時間)は約110分(109.77分)と非常に短いため、体内に残る放射線量は24時間以内に8192分の1まで減衰します。

陽電子(ポジトロン)ってなに?

FDGから放出される陽電子が体内の電子と出会うと「対消滅」という現象が起こり、2本のガンマ線が正反対の方向に飛び出します。この2本のガンマ線を検出器で同時に捉えることで、体内のどこでFDGが集まっているかを特定できるのです。

現場では「ちょうど花火が打ち上がって光が四方八方に散るイメージ」なんて患者さんに説明することもあります。

対なので一つのポジトロンに対しては2つですが

PET-CT検査が主流になった理由

最近では「PET検査」ではなく「PET-CT検査」が主流です。これはPETとCTを組み合わせた装置で、一度の検査で以下の情報が得られます:

  • PET画像:がん細胞の代謝活動(機能情報)
  • CT画像:体の詳しい形や位置(解剖学的情報)

この2つを重ね合わせる(融合画像)ことで、「このがんは肺のどの部分にあるのか」まで正確に特定できます。日本核医学会が発行する「FDG PET, PET/CT診療ガイドライン2020」でも、この組み合わせの有用性が強調されています。

検査当日の流れを詳しく解説

検査前の準備が超重要!

PET検査は準備がとても大切です。特に以下の点に注意してください:

1.検査前日・当日は激しい運動を控える

運動後の疲労した筋肉に薬剤が集まってしまい、病気が見分けがつきづらくなってしまう可能性があるためです。

2. 絶食時間を守る

検査の6時間前から絶食が必要です。ただし、水やお茶などの糖分を含まない飲み物はOKです。

なぜ絶食が必要かというと、血糖値が高いとがん細胞がすでに「お腹いっぱい」状態になってしまい、FDGをあまり取り込まなくなってしまうからです。逆に、絶食で血糖値を下げておくと、がん細胞が「お腹すいた!」とFDGを積極的に取り込んでくれます。

3. 血糖値の管理

日本核医学会の「FDG-PETがん検診ガイドライン」では、血糖値は150mg/dL以下が原則とされています。200mg/dL以上になると画像の質が著しく低下し、がんが見つけにくくなります。

糖尿病の患者さんは、検査当日はインスリン注射や糖尿病薬の服用を中止する必要があります。低血糖を避けるためにも、午前中の検査が推奨されています。

検査当日の流れ(所要時間:約2時間)

PET検査の流れ
1
問診と説明
約15分
受付後、検査室へご案内します。技師が体調確認と検査の説明を行います。
✅ 体重測定
✅ 血糖値測定(150mg/dL以下が原則)
✅ 問診票の確認
✅ 検査の流れの説明
✅ 貴重品をロッカーへ
2
FDGの注射
約5分
静脈から放射性医薬品(FDG)を注射します。痛みは普通の採血と同じ程度です。
✅ 腕の静脈に注射(約10秒)
✅ 痛みは採血程度
✅ 副作用はほとんどありません
3
待機時間(最重要)
約60分
FDGが全身に行き渡るまで、待機室で安静にしていただきます。この時間が検査の精度を左右します。
⚠️ この間、絶対にやってはいけないこと:
運動・読書・テレビ鑑賞・携帯電話の使用
筋肉を使うとFDGがそこに集まってしまい、正確な診断ができません
4
撮影
約15〜20分
検査台に横になり、ドーナツ型の機械の中をゆっくり移動しながら全身を撮影します。
✅ 仰向けに寝て、腕を頭の上に挙げます
✅ 痛みは全くありません
✅ 機械の音は比較的静かです
✅ じっとしていることが重要です
5
検査終了・帰宅
検査後
撮影が終わったら着替えて帰宅できます。体内のFDGを早く排出するため、水分を多めに摂取してください。
✅ こまめに水分補給(500ml〜1L)
✅ こまめにトイレへ
✅ 妊婦・10歳未満の子どもとの接触は最小限に
✅ 通常の生活はすぐに可能です
検査全体の所要時間
約2時間

スマホ使用等は施設の検査ポリシーにより異なる場合があります

診断精度を高めるために、必要に応じて2回目の撮影を行う場合があります

PET検査が役立つ場面・適さない場面

PET検査が役立つ場面・適さない場面
PETが特に有効な場面
原発不明がんの探索
転移が見つかったが、どこから発生したか不明な場合に全身を一度に調べられる
遠隔転移の評価
肺がん・大腸がん・乳がんなどで、他の臓器への転移を調べる際に有用
治療効果の判定
抗がん剤や放射線治療後、腫瘍の活動性が低下したかを評価できる
悪性リンパ腫の病期診断
リンパ腫の広がりを調べる際、CTやMRIより正確な場合が多い
がん治療後の再発監視
手術や治療後、再発が疑われる場合の全身チェックに適している
⚠️
PETより他の検査が適している場面
早期胃がんの発見 → 内視鏡検査
胃の表面にできた早期がんはPETでは見つけにくい。胃カメラが確実
肝臓がんの診断 → 造影CT・MRI
肝臓の正常な代謝活動により、PETでは原発性肝がんの検出が難しい
前立腺がんのスクリーニング → PSA検査
前立腺がんは代謝が低く、PETでの検出率は限定的。血液検査が第一選択
脳腫瘍の診断 → MRI
脳は正常でも糖を大量に消費するため、PETでは腫瘍との区別が困難
1cm未満の早期がん → 各種専門検査
小さながんはPETの解像度では検出困難。臓器別の精密検査が必要
健康診断・人間ドック → 各種がん検診
初めてのがん発見には、内視鏡・マンモグラフィー・便潜血検査など臓器別検査が推奨される
💡 重要なポイント
PET検査は「万能」ではなく、「適材適所」で使う検査です。がんの種類、大きさ、目的(初回診断 or 再発チェック)によって、最適な検査方法は異なります。

医師は複数の検査結果を総合的に判断してがんを診断します。PET検査だけで診断が確定するわけではありません。

どの検査を受けるべきか迷った場合は、必ず担当医に相談してください。

偽陽性と偽陰性について

偽陽性(がんではないのに異常と判定される)

炎症や良性疾患もブドウ糖代謝が活発になることがあります。例えば:

  • 結核、サルコイドーシス、真菌症などの感染症
  • ワルチン腫瘍、褐色細胞腫などの良性腫瘍
  • 大腸腺腫、甲状腺腺腫
  • 手術後の創部

「風邪をひいていて喉が腫れていたら、そこに集まることもあるんですよ」と患者さんに説明すると、納得していただけることが多いです。

偽陰性(がんがあるのに見つからない)

前述の苦手ながんに加えて、partial volume effect(部分容積効果)により、小さな病変では本来よりも低いSUV値になることがあります。

SUV値って何?

SUV(Standard Uptake Value:標準化集積値)は、FDGがどれくらい集まっているかを数値化したものです。

計算式は

SUV = 組織の放射能濃度(Bq/ml) × 体重(g) / 注入FDG量(Bq)

ただし、SUV値だけで「これはがんです」と判断することはできません。なぜなら、以下の要因で値が変動するからです

  • 患者さんの体格
  • 注射から撮影までの時間
  • 血糖値やインスリン値
  • 病変のサイズ
  • 撮影装置の性能

日本核医学会のガイドラインでも「SUV値は治療前後の比較や研究目的での使用が望ましい」とされており、単独での良悪性判定は推奨されていません。

放射線被ばくは安全?

PET-CTと他の検査の被ばく線量比較
各種検査の被ばく線量比較
PET-CT検査
8〜10mSv
8〜10mSv(胸部CT約2回分)
胸部CT検査
約5mSv
約5mSv
バリウム検査
約4mSv
約4mSv
年間自然被ばく
約2.4mSv
約2.4mSv
⚠️ 健康影響の基準値
環境省によると、100〜200mSv以上の線量で健康リスクが上昇する科学的根拠があります。PET-CT検査の10mSv程度では体に被害が及ぶ可能性は極めて低いとされています。
※mSv = ミリシーベルト(放射線量の単位)
※数値は環境省および各医療機関の報告に基づく標準的な値です
※個々の検査条件により多少変動する場合があります

被ばく線量の実際

患者さんから最もよく質問されるのが「放射線は大丈夫ですか?」という点です。

PET-CT検査全体の被ばく線量:約8〜10mSv

  • FDGによる被ばく:約3.5mSv
  • CTによる追加被ばく:約1.4〜3.5mSv(施設により異なる)

他の検査との比較

  • 胃のバリウム検査:約4mSv
  • 胸部CT検査:約5mSv
  • 年間の自然放射線量:約2.4mSv(日本平均)

環境省によると「100〜200ミリシーベルト以上の線量では、がんになるリスクが上昇する科学的根拠が存在する」とされており、10mSv程度のPET-CT検査では体に被害が及ぶ可能性は極めて低いとされています。

検査後の注意事項

検査後は以下の点に注意が必要です:

  • 妊娠中・妊娠の可能性がある方は検査を受けられません
  • 授乳中の方は24時間授乳を中止
  • 検査当日は妊婦や10歳未満の子どもとの接触を最小限に

「体から出て行くスピードが速いので、夕方にはほとんど減ってますよ」と説明すると、患者さんも安心されます。

費用について知っておこう

保険適用の場合

「すでにがん」または「がんの疑いがある」と診断された方で、他の検査で病期診断や転移・再発の診断が確定できない場合に限り、保険適用となります。

3割負担の場合:約2万〜5万円(平均約3万円)

自費診療の場合

健康診断や人間ドックとしてPET検査を受ける場合は全額自己負担です。

費用の相場:約10万〜20万円(施設により異なる)

大手総合病院や専門のPET画像診断センターによって価格設定が異なるため、事前に確認されることをお勧めします。

結果はいつわかる?

検査結果は通常、1〜2週間後に主治医から説明されます。当日にすぐわかるわけではありません。

というのも、放射線科医が慎重に画像を読影(診断)し、レポートを作成する時間が必要だからです。

検査前日から気をつけること

  1. 激しい運動は避ける:前日の筋トレやマラソンは控えましょう。筋肉にFDGが集まってしまいます。
  2. 糖質制限:検査前日の夜から炭水化物を控えめにすると、より正確な検査ができます。
  3. 十分な睡眠:疲れていると体が緊張し、筋肉にFDGが集まりやすくなります。

検査着に着替える理由

金属やプラスチックのボタン、ファスナーが画像に写り込むことがあるため、検査着に着替えていただきます。アクセサリーや時計も全て外してくださいね。

PET検査を受けるべき人は?

こんな方が対象

  • 複数のがんリスクを一度に調べたい方
  • 他の検査で異常が見つかり、詳しく調べたい方
  • がん治療後の経過観察が必要な方
  • 家族歴があり、予防的に検査を受けたい方

他の検査との組み合わせが理想

PET検査だけでなく、以下との組み合わせが理想的です:

  • 胃・大腸内視鏡検査
  • 乳房超音波検査、マンモグラフィ
  • 腫瘍マーカー
  • 脳MRI(脳腫瘍の場合)

まとめ

PET検査は、がん細胞の代謝活動を画像化できる非常に優れた検査です。一度の検査でほぼ全身のがんを調べられる点は大きな魅力ですが、得意・不得意ながんがあることも理解しておく必要があります。

日本核医学会の「FDG PET, PET/CT診療ガイドライン2020」や「FDG-PETがん検診ガイドライン2019版」に基づいた適切な使用が重要です。

検査を受ける際は、前処置(絶食・血糖値管理)をしっかり守り、疑問点があれば遠慮なく放射線技師や医師に質問してください。私たち医療スタッフは、皆さんの健康を第一に考えています。

「早期発見・早期治療」は医療の基本です。PET検査が皆さんの健康管理の一助となれば幸いです。

参考文献・ガイドライン

本記事は、以下の信頼できる医学文献、ガイドライン、公的機関の資料に基づいて作成されています。

学会ガイドライン

  1. 日本核医学会(2020) 「FDG PET, PET/CT診療ガイドライン2020」 https://jsnm.org/ ガイドライン
  2. 日本核医学会(2019) 「FDG-PETがん検診ガイドライン2019版」 https://jsnm.org/ 
  3. 日本医学放射線学会(2022) 「FDG PET/MRI診療ガイドライン2019」 https://www.radiology.jp/ 

公的機関・医療機関

  1. 国立がん研究センター 「がん情報サービス – PET検査について」 https://ganjoho.jp/public/dia_tre/inspection/pet.html がん検診・診断におけるPET検査の役割、検出率データ
  2. 環境省 「防護の考え方」
    https://www.env.go.jp/chemi/rhm/current/04-02-04.html 被ばく線量と健康リスクとの関係

患者向け情報

  1. 日本核医学会 「患者さん向け PET検査Q&A」  https://jsnm.org/press/onegai/

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最終更新: 2025年11月24日

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