【診断・経営の武器にする】医療人のための病院ネットワーク・DX入門 ― 診療報酬改定2026対応版

TL;DR ― この記事の結論

2026年改定でクラウドPACS・VPN・遠隔読影が収益に直結する時代に。ネットワークの「住所(IP)」と「道路(帯域)」の仕組みを理解すれば、ベンダーやシステム課と対等に会話できる。ガイドライン6.0版が求める二要素認証・バックアップを技師自身がチェックし、DXを「受け身」ではなく「部門の武器」に変えよう。

1. なぜ今「ネットワーク」が技師の給料に関わるのか

Lina
LINA

ゆんさん、最近「クラウドPACS」とか「VPN」とか会議で飛び交ってるんですけど……正直、何のことかさっぱりで。放射線技師にネットワークの知識って必要なんですか?

Yun
YUN

結論から言うと、ネットワークの知識は技師の給料に直結する。2026年の診療報酬改定で、遠隔読影の管理加算やクラウドPACSを使った情報連携が「お金になる」仕組みが整った。でも、ネットワークがブラックボックスのままだと、ベンダーの言いなりで高い構成を組まされたり、システム課との交渉で的外れな要求をしてしまう。今日はその「最低限知っておくべきこと」を整理しよう。

2026年改定で変わった3つのDX収益ポイント

  • 遠隔読影の管理加算:受信側(自院)でも画像診断管理加算が算定可能に → クラウドPACS + VPN環境が前提
  • 共同利用によるCT/MRI上位区分:地域クリニックとのネットワーク連携で+20点/件
  • 電子的情報共有:診療情報提供料の加算 → 安全なデータ交換基盤が必要
図1:ネットワーク投資がどう収益につながるか ― 2026年改定のDXフロー

2. ネットワークの基礎 ― 「住所」と「道路」で考える

Yun
YUN

ネットワークを理解するコツは、郵便の仕組みに例えることだ。病院の中にある機器にはすべて「住所」が振られていて、データという「荷物」を「道路」を通って届ける。この「住所」がIPアドレス、「道路の広さ」が帯域(bps)だよ。

2-1. IPアドレス = 病院内の「部屋番号」

病院内のネットワークに接続されたすべての機器 ― CT、MRI、PACSサーバ、電子カルテ端末 ― には固有の「住所」であるIPアドレスが割り振られています。

IPアドレスの基本構造

例:192.168.10.25

  • 192.168.10(ネットワーク部)= マンションの「棟番号」→ どの部署のネットワークか
  • .25(ホスト部)= マンションの「部屋番号」→ その機器固有の番号
  • VLAN(仮想LAN)で部署ごとにネットワークを分離 → セキュリティの基本
Lina
LINA

つまり、放射線部門のCTとMRIは「同じマンションの別部屋」で、経理部のPCは「別のマンション」ってことですね!VLANで分けることで、万が一経理のPCがウイルスに感染しても放射線部門には影響しない……?

Yun
YUN

その通り。VLAN分離はガイドライン6.0版でも推奨されている基本中の基本だ。「うちのPACSって他の部署と同じネットワークに入ってませんか?」とシステム課に聞くだけでも、セキュリティ意識の高い技師だと思ってもらえるよ。

図2:病院ネットワークの基本構成 ― 院内LAN・DMZ・外部接続

2-2. 帯域(bps)= 「道路の車線数」

Lina
LINA

うちの病院、CTの画像をPACSに送るのにすごく時間がかかるんです。PACSサーバが古いせいだと思ってたんですけど……

Yun
YUN

それ、「道路(回線)」のせいかもしれないよ。帯域(bps = bits per second)は、1秒間に何ビットのデータを運べるかを表す。高速道路で例えると、車線の数に相当する。荷物(画像データ)がどんなに準備万端でも、1車線しかない道路では渋滞するよね。

画像転送時間の概算

転送時間(秒)= データ量(bit)÷ 帯域(bps)

例)胸部CT 500枚(約250MB = 2Gbit)を 100Mbps回線で転送 → 約20秒
同じデータを 1Gbps回線で転送 → 約2秒(10倍高速)

ベンダーに確認すべきポイント

回線スペックは「理論値」と「実効値」で大きく異なります。「1Gbps契約」でも実効値は300〜700Mbps程度が一般的。さらに、院内の多くの端末が同じ回線を共有している場合、時間帯による「渋滞」が発生します。ベンダーには「実効帯域の計測結果」を求めましょう。

3. VPNとファイアウォール ― 病院の「門番」と「専用トンネル」

Yun
YUN

次はセキュリティの話だ。病院のネットワークをインターネットに繋ぐと、外部から不正アクセスされるリスクがある。そこで登場するのがファイアウォールVPN。ファイアウォールは「門番」で、誰が出入りしていいかを管理する。VPNは「専用トンネル」で、インターネット上に暗号化された安全な通路を作るんだ。

図3:VPNの仕組み ― インターネット上に暗号化トンネルを構築
Lina
LINA

なるほど!VPNは「秘密の地下通路」みたいなもので、たとえインターネット上を通っていても中身は暗号化されてるから安全ってことですね。遠隔読影で外部の先生に画像を見てもらうのも、このトンネルを通してやり取りするんだ!

VPN導入でよくある失敗パターン

  • VPN装置のスループット不足:安価なVPN装置は暗号化処理で速度が大幅に低下。CT画像の転送で「使い物にならない」ケースが多い。装置選定時に「暗号化時のスループット」を確認すること
  • ログ管理の放置:VPN接続のログを取っていない病院が多い。ガイドライン6.0版では「誰が・いつ・どこから接続したか」のログ保存が求められている
  • パスワードだけの認証:VPN接続にID/パスワードだけでは不十分。二要素認証(証明書 + パスワード等)が必須要件

3-1. ガイドライン6.0版 ― 技師が知るべき3つの要点

厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版」[ 1 ]は、医療機関のIT管理者だけでなく、利用者である技師自身が知っておくべき内容を含んでいます。

GUIDELINE ESSENTIALS ― 技師が押さえるべき3つのポイント

1. 二要素認証の義務化

リモートアクセス(VPN接続・クラウドPACS利用)時は、「知っているもの(パスワード)」+「持っているもの(ICカード・証明書)」の二要素が必須。パスワードだけの運用は不適合。

2. バックアップの「3-2-1ルール」

3つのコピーを、2つの異なる媒体に保存し、1つは遠隔地(クラウド等)に保管する。ランサムウェア対策として最も有効な手段の一つ。

3. クラウド利用時の責任分界点

クラウドPACSを利用する場合、データの管理責任はあくまで医療機関側にある。「クラウドだから安全」ではなく、サービスレベル契約(SLA)でデータ保護の内容を必ず確認すること。

4. クラウド vs オンプレミス ― 正解は「使い分け」

Lina
LINA

クラウドPACSって「全部外に出す」ってことですよね?セキュリティ的に大丈夫なんですか?それに、コストも気になります。

Yun
YUN

いい質問だね。クラウドとオンプレミスはどちらが正解かではなく、「何を優先するか」で使い分けるのがポイントだ。ただし一つ気をつけてほしいのは、クラウドPACSは初期費用が安い代わりに、「隠れたコスト」として通信回線の増強費用がかかるということ。画像データは非常に重いから、回線が細いとクラウドの恩恵を全く受けられない。

比較項目オンプレミスクラウドPACS
初期費用数千万円(サーバ+ストレージ)月額課金(数十万円〜)
通信回線院内LANで完結(追加不要)高速回線必須(1Gbps推奨)
保守・運用自前(技師・SE負担大)ベンダー管理(24時間監視)
BCP(災害対策)院内被災時にデータ喪失リスク遠隔地保管で高い耐障害性
スケーラビリティ拡張にハードウェア購入が必要契約変更で即座に容量追加
遠隔読影との親和性別途VPN構築が必要標準機能として提供
図4:オンプレミス vs クラウドPACS ― TCO(5年間総コスト)で比較する
Lina
LINA

クラウドに移行すれば安くなると思ってたけど、回線費用まで含めたTCO(総保有コスト)で比較しないと意味ないってことか……。ベンダーにクラウドを提案されたとき、「回線増強費はどちらが負担ですか?」って聞けますね!

5. DXが生む収益 ― ROIで語る

Yun
YUN

ここまでの知識を使って、「ネットワーク投資はお金を生む」ということを数字で示そう。経営層への提案で最も重要なのはROI(投資対効果)を明確にすることだ。

ネットワーク投資のROIシミュレーション

投資項目年間コスト年間リターン
回線増強(100Mbps→1Gbps)+60万円技師の残業削減 約120万円
VPN導入(月額5万円)60万円遠隔読影管理加算 約300万円
クラウドバックアップ120万円BCP対策(施設基準維持)
合計240万円420万円+

※ 施設規模や地域連携の程度によって数値は変動します。あくまで試算の一例です。

図5:ネットワーク投資のROIフロー ― 投資→効果→回収の全体像
Lina
LINA

年間240万円の投資で420万円以上のリターン……1〜2年で回収できるレベルじゃないですか!しかもBCP対策は「お金に換算できない安心感」もあるし、経営層への説得材料として強いですね!

6. システム課への「聞き方」テンプレート

Yun
YUN

最後に、明日から使える「システム課への聞き方」を教えよう。ポイントは「何がわからないか」ではなく、「自分はこう理解しているが合っているか」という確認型の質問にすること。これだけで、相手の対応が格段に変わる。

明日から使える質問テンプレート 5選

1. ネットワーク分離の確認

「PACSと電子カルテはVLANで分離されていると理解していますが、CT/MRIのモダリティも同じセグメントに入っていますか?」

2. 帯域の確認

「放射線部門のネットワークは現在何Mbpsで運用されていますか?実効帯域の計測データがあれば共有いただけますか?」

3. VPNの暗号方式

「遠隔読影用のVPN接続で使用している暗号方式はAES-256ですか?また、二要素認証は導入済みでしょうか?」

4. バックアップの状況

「PACS画像のバックアップはガイドライン6.0版の3-2-1ルール(3コピー・2媒体・1遠隔地)に準拠していますか?」

5. クラウド移行時の回線

「クラウドPACS導入を検討する場合、現在の回線帯域で十分ですか?回線増強が必要な場合のコスト見積もりは出ていますか?」

Lina
LINA

「わかりません、教えてください」じゃなくて、「こう理解してますが合ってますか?」と聞くだけで、システム課の人も「この技師さん、ちゃんと勉強してるな」って思ってくれそう!

7. まとめ ― DXを「部門の武器」に変えるマインドセット

SUMMARY

この記事で学んだこと

  1. ネットワーク = 収益基盤:2026年改定で遠隔読影・共同利用・情報共有が「お金になる」仕組みが整った。その土台がネットワーク
  2. IPアドレス = 住所、帯域 = 道路:この2つの概念を理解するだけで、ベンダーやシステム課との会話が噛み合う
  3. VPN = 暗号化トンネル:インターネット上に安全な通路を作る技術。遠隔読影やクラウドPACSの前提条件
  4. ガイドライン6.0版の3要点:二要素認証・3-2-1バックアップ・クラウド責任分界の理解は技師の「教養」
  5. クラウドの「隠れたコスト」:回線増強費を含めたTCOで比較しなければ意味がない
  6. ROIで語る:ネットワーク投資は年間240万円 → 420万円以上のリターン。1〜2年で回収可能
Yun
YUN

DXは「情報システム部門の仕事」じゃない。放射線部門が主体的にネットワークを理解し、活用することで、初めて収益改善と業務効率化が実現する。今日話した内容を全部覚える必要はない。まずは明日、システム課に1つだけ質問してみることから始めよう。

Lina
LINA

はい!まずは「うちのPACSはVLANで分離されてますか?」って聞いてみます。ネットワークって難しそうと思ってたけど、「住所と道路」で考えれば意外とシンプルなんですね!

ABOUT ME
ゆん
技師歴15年。副業歴5年。投資歴5年。 資格、転職・副業などのキャリア情報と、患者さん向け情報を発信しています。