大学病院優位の罠 ~2026年度診療報酬改定で遠隔読影加算が中小病院を置き去りにする現実~
TL;DR ― この記事の結論
2026年改定で「遠隔読影の受信側でも画像診断管理加算が算定可能」になった。一見、すべての病院の収益チャンスに見えるが、加算2〜4の施設基準(常勤専門医数)をクリアできるのは実質的に大学病院クラスだけ。中小病院・遠隔読影会社は構造的に排除されている。「地域連携」の名が付いた病院集約化の布石であることを認識し、生き残り戦略を今すぐ考えるべき。
はじめに ― 「遠隔読影解禁」の華やかな裏側
2026年度(令和8年度)診療報酬改定。本体部分が+3.09%と大幅なプラス改定となり、賃上げ・医療DX・機能分化が3つの柱として掲げられました。放射線部門にとっての最大の目玉は「遠隔読影の受信側でも画像診断管理加算2〜4が算定可能になった」こと。中医協答申(2026年2月13日公表)を見て、多くの放射線技師・放射線科医が「これで地方の市中病院も遠隔読影で収益化できる!」と期待したはずです。
でも、ちょっと待ってください。
筆者自身、改定資料を読み込み、Xで現場の放射線科医や技師の声を追いかけるうちに、このスキームの「受益者」は極めて限定的であることに気づきました。言い方を変えれば ―― 「大学病院優位の罠」が仕掛けられています。
改定の「キラキラした文言」の裏側を、今日は少し皮肉を込めて深掘りするよ。制度を正しく理解しないと、「知ってる施設だけが得をする」いつものパターンになるからね。
1. なぜ大学病院しか取れないのか ― 加算2〜4の「壁」
1-1. 画像診断管理加算の施設基準を整理する
まず事実を確認しましょう。「画像診断管理加算」は4段階あり、それぞれの施設基準がまったく異なります。
| 加算区分 | 点数(月1回) | 常勤専門医数 | その他の主な要件 |
|---|---|---|---|
| 加算1 | 70点 | 1名以上 | 診療所でも可 |
| 加算2 | 175点 | 1名以上 | 病院のみ、8割以上の読影率 |
| 加算3 | 235点 | 3名以上 | 救命救急センター等、24時間読影体制 |
| 加算4 | 340点 | 6名以上 | 特定機能病院(≒大学病院) |
ここがポイントです。加算2ですら「病院であること」が条件で、クリニック型の遠隔読影会社はアウト。加算3は常勤放射線診断専門医が3名以上 ―― これは中規模以下の市中病院ではほぼ不可能な数字です。加算4に至っては6名以上で、事実上大学病院と一部の超大型総合病院にしか門戸が開かれていません。
1-2. 遠隔読影の「受信側算定」が意味すること
⚠️ ここが罠
今回の改定で「受信側でも画像診断管理加算2〜4を算定できる」とは、受信側が自院の施設基準に基づいて算定できるということです。つまり受信側(読影側)が上記の常勤医数を満たしていなければ、そもそも算定権が発生しない。遠隔読影会社や、常勤放射線科医が1人しかいない市中病院には、この「解禁」はほとんど意味をなしません。
結果として生まれるのは、こういう構図です:
遠隔読影の「勝ちパターン」
- 大学病院(常勤医6名以上)が、関連病院の画像を遠隔で受信・読影する
- 大学病院側で加算4(340点/月)を算定 → 安定収益
- 送信側の市中病院は撮影料のみ取る「撮影拠点」に固定化
要するに、大学病院が既存の人的資源で収益を取り、中小病院は装置を回すだけの下請け化する構造です。
2. 現場の声 ― Xで飛び交うリアルな嘆き
筆者がこの問題に気づいたきっかけの一つは、Xでの放射線科医や技師のポストでした。現場の肌感覚を紹介します。





共通しているのは「制度は作った。でも使えるのは限られた施設だけ」というフラストレーション。そして「使おうとすると現場が崩壊する」という恐れです。
3. 国の本音 ― 「病院統合・集約化」の布石
ここからは少し視野を広げて、この改定の「設計思想」を読み解きます。
2026年度改定の柱は「医療機能の分化・連携・集約化」です。厚生労働省が何度も使うこのフレーズ。言い換えれば「すべての病院が同じことをやる時代は終わり。役割分担しろ」ということです。
遠隔読影加算の「真の狙い」を推理する
- 放射線診断専門医は全国で約6,000人。慢性的に不足しており、大学病院に偏在。
- この「希少資源」を遠隔技術で効率的にシェアしろ、というのが国のメッセージ。
- しかしシェアの方向は「大学→周辺」の一方通行。周辺から大学へ専門医が流れるわけではない。
- 結果:大学病院が「高度読影ハブ」になり、中小は「撮影拠点」に。
- さらにその先には ―― 「専門医がいない病院は読影すら自前でできない」状態を制度化し、病院統合・系列化を加速させるシナリオ。
もちろん、これが100%「悪」だとは言いません。放射線診断医の偏在は事実であり、遠隔読影によって地方の患者が質の高い読影レポートを受け取れるなら、それ自体は歓迎すべきことです。
問題は、その恩恵を受ける構造が「大学病院の収益化」に直結し、中小施設に選択肢がない点にあります。
「地域連携」って聞こえはいいけど、中小の自律性が削られていく点にはもっと光を当てるべきだ。放射線部門の主任・技師長クラスはこの構造を経営層に説明できるようになってほしい。
4. 中小施設・技師の生存戦略 ― 5つの具体策
「罠」を嘆いていても始まりません。では、中小施設と放射線技師は何をすべきか。現実的に打てる手を5つ提案します。
戦略1:大学/大病院との「連携先」として選ばれる送信側になる
遠隔読影の受信側で加算を取るのが難しいなら、「送信側として価値ある撮影をする施設」にポジションを取りましょう。画質の高いプロトコル、正確な臨床情報の添付、迅速な画像転送 ―― 大学の読影医が「この病院の画像はいつも読みやすい」と感じる施設は、連携先として選ばれ続けます。技師の腕がモノを言う領域です。
戦略2:加算1で現実路線を走る
加算1(70点)は常勤専門医1名で、診療所でも算定可能。背伸びして加算2〜4を狙うより、加算1を確実に取りつつ、撮影件数を増やす方が現実的です。@transmetalation氏が指摘するように「加算1で読影なしCT検査枠を開く」アプローチ ―― 倫理的な議論はありますが、経営的にはリアルな選択肢です。
戦略3:AI読影支援ツールの導入で医師の負担を減らす
AI支援読影は「加算」の対象にはなりませんが、少ない常勤医でも大量の画像をさばける環境を作ることで、遠隔読影の受信量を増やせます。結果として加算取得施設との連携時の信頼度が上がります。技師がAIツールの運用・精度管理を担えれば、部門の価値向上にも直結します。
戦略4:CT/MRI共同利用で「撮影ハブ」化する
読影で稼げないなら、撮影で稼ぐ。2026年改定のCT/MRI共同利用加算(+20点/件)を活用し、地域の「画像撮影ハブ」として紹介検査を集約しましょう。128列CTなら基本点数+100点と合わせて最大+120点/件。年間5,000件で600万円の増収です。ただし共同利用率10%以上の壁があるため、戦略的な連携先開拓が必要です。
戦略5:技師ネットワークで情報共有・制度提言を
中小施設の技師一人ひとりが声を上げても制度は変わりませんが、技師コミュニティで実態データを集約し、職能団体を通じて中医協に意見を届けることは可能です。「この加算は大学しか取れない」というエビデンスを数字で示せれば、次の改定で施設要件の緩和につながる可能性があります。
おわりに ― 「罠」を知った上で、チャンスに変える
「地域連携」の美名の下に大学病院優位の罠が仕掛けられている ―― これが今回の改定の一つの本質だと僕は考えている。でもね、罠の存在を知っている者は、それを踏まない。中小施設だから諦めるんじゃなく、撮影品質・共同利用・技師のスキルで「選ばれる拠点」になることは十分可能だ。
- 2026年改定の遠隔読影「受信側算定」は、加算2〜4の施設基準(常勤専門医数)が最大の壁。中小病院・遠隔会社はほぼ活用不可。
- この制度設計は、放射線診断医を大学病院に集約し、読影の中央集権化と病院系列化を加速させる布石。
- 中小施設の生存戦略は「送信側の撮影品質」「共同利用ハブ化」「加算1の現実路線」「AI活用」「技師ネットワーク」の5軸で攻める。
- 放射線技師こそ、この構造を理解し、経営層への説明と制度への提言ができる存在になるべき。
この記事が「うちの病院、どうすれば…」と悩む技師の一助になれば幸いです。
知ることが、最初の生き残り戦略です。



















.jpg)