診療報酬改定2026「5つの柱」を読む|放射線部門が知るべき国の未来設計

なぜCT/MRI共同利用に加算がつくのか。なぜ遠隔読影が評価されるのか。なぜベースアップが義務化されるのか。
個別の点数変更の「裏」にある、国と中医協が描く2040年への医療グランドデザインを5つの柱で徹底分析します。
2026年度の診療報酬改定 ―― 個別の点数や施設基準の変更は以下の完全ガイドで詳しく解説しています。

しかし、「なぜその変更がなされたのか」を理解しなければ、次の改定で出遅れます。
本記事では、中央社会保険医療協議会(中医協)の議論と膨大な改定資料を分析し、国が目指す医療の方向性を「5つの柱」に整理。 それぞれが放射線部門にどう影響するかを読み解きます。
ゆんさん、点数表の変更点は完全ガイドで勉強したんですけど、そもそも国は医療をどういう方向に変えたいんですか? 大きな絵が見えると、細かい改定も腑に落ちる気がして。
とてもいい視点だね。今回の改定資料を俯瞰すると、国が描いている未来図は一言でこう言える ―― 「人口減少と高齢者の急増(2040年問題)に耐えうる、効率的かつ持続可能な医療提供体制の構築」。この一点に全てが集約されている。
具体的には5つの柱に整理できる。順番に見ていこう。
2026年度改定を貫く国の方針は5つの柱に集約される: ①賃上げ(物価対応料新設+ベースアップ恒久化)、 ②医療DX(情報連携の点数化+遠隔医療の制度化)、 ③機能分化・集約化(急性期の絞り込み+高額機器の共同利用)、 ④高齢者の生活機能重視、 ⑤地域完結型医療への転換(紹介・逆紹介推進+かかりつけ医機能)。 放射線部門は②③⑤の影響を特に強く受ける。「自院の機能を明確にし、地域ネットワークに組み込まれること」が生存条件になる。


- 放射線部門経営:共同利用の立ち上げ、遠隔読影の事業化、収益シミュレーション
- キャリア:ベースアップ評価料と技師の待遇改善
第1の柱:医療人材の確保と「賃上げ」 ― システム維持の大前提
今回の改定で最も顕著な特徴は、医療従事者の処遇改善と物価高騰対応への「執念」だ。国は「まず給与を上げて人材をつなぎ止めなければ、医療が崩壊する」という強い危機感を持っている。
ベースアップ評価料の恒久化と拡充
「看護職員処遇改善評価料」に加え、「外来・在宅ベースアップ評価料」「入院ベースアップ評価料」が新設・拡充されました。 対象は薬剤師や事務職員も含めた全職種に拡大し、もちろん診療放射線技師も含まれます。
さらに重要なのは、「継続的に賃上げを行っている医療機関」は上位の点数区分で評価される仕組みが導入されたこと。 一過性のボーナスではなく、毎年の基本給引上げを「構造的な変化」として定着させようとしています。
物価対応料の新設
食材料費や光熱費の高騰に対応するため、初再診料や入院料に上乗せする「物価対応料」が新設されました。 医療機関の経営基盤そのものを下支えする措置であり、全産業の賃上げに医療分野が取り残されることへの危機感の表れです。
つまり国は「賃上げしなければ算定できない」仕組みを作ったということですね。それって事実上の義務化じゃ…!
放射線部門への影響
- ベースアップ評価料の収益は、基本給または固定手当(夜勤手当含む)の引上げに3分の2以上を充当する義務あり → 技師の月給が直接上がる仕組み
- 物価対応料は病院全体の経営を下支え → 高額装置の維持コスト(電気代・保守費)の圧迫軽減に寄与
- 技師としてのアクション:①自院がベースアップ評価料を届け出ているか確認、②未届出なら事務部門に情報提供、③賃金改善計画の内容と自分たちへの配分を確認
なぜ「診療報酬」で賃上げをするのか?
2024年4月施行の医師の時間外労働規制により、タスクシフトが急速に進む中、受け皿となるコメディカルの人材確保が急務に。全産業の賃上げが進む中で医療分野だけが取り残されれば人材流出が加速するという危機感が中医協の議論を動かしました。国が医療機関に対して「人への投資」を半ば義務化したものと理解すべきです。
第2の柱:「医療DX」の強制的な推進 ― 人ではなく情報を動かす
2つ目の柱は「医療DX」。ここで言うDXは単なる電子化じゃない。医療機関間での情報共有を前提とした評価が徹底されている。労働人口が減る中、全ての病院に専門医やスタッフを配置することは不可能だから、「人」ではなく「情報」を動かすことで少ない医療資源を効率的に回すインフラを完成させようとしているんだ。
情報連携の点数化
「電子的診療情報連携体制整備加算」や「医療DX推進体制整備加算」が新設・再編されました。 マイナンバーカード、電子処方箋、電子カルテ情報共有サービスの導入・活用を前提とした点数体系です。
放射線部門にとって特に重要なのは、CD/DVDでの画像受け渡しからネットワーク経由の画像共有への移行が加速する点。 クラウドPACSやVPN環境の整備は、共同利用や遠隔読影の効率化に直結します。
遠隔医療の制度化
遠隔読影の話は完全ガイドでも出てきましたけど、他にもDXで変わるところがあるんですか?
たくさんある。今回の改定では遠隔画像診断だけでなく、Tele-ICU(遠隔によるICU支援)や、医師不足地域におけるIMRTの遠隔支援(常勤医1名での算定特例)など、ICTを用いた専門医リソースのシェアリングが制度として確立された。共通しているのは「少ない専門医で広い地域をカバーする」という発想だ。
放射線部門への影響:DXが収益を左右する時代
- 遠隔画像診断:受信側(読影する病院)での画像診断管理加算(2, 3, 4)の算定が解禁 → 放射線科医の専門性を収益に変えるチャンス
- IMRT遠隔支援:ICTを活用した遠隔支援体制で常勤医1名での算定が可能に → 地方のがん拠点病院にとって画期的
- Tele-ICU:集中治療領域での遠隔支援が制度化 → 放射線部門も遠隔支援モデルの拡大を先取りすべき
- 情報連携加算:電子的診療情報の共有に段階的な評価 → CD/DVD運用からの脱却が急務
「データが流通する基盤」を経済的に成り立たせる布石
政府は2030年までに全国の医療機関を「全国医療情報プラットフォーム」で接続する構想を掲げています。今回の改定で遠隔読影や情報連携に正当な対価がつくようになったのは、データが施設間を流通する基盤を経済的に成り立たせるための布石。遠隔読影の事業化やクラウドPACSの導入は「国策に乗る」ことと同義です。
第3の柱:医療機能の「厳格な分化」と「集約化」 ― 何でもやる病院の時代は終わる
3つ目の柱は、放射線部門にとって最もインパクトが大きい。病院が「何でもやる」時代を終わらせ、機能ごとの役割分担を診療報酬で誘導し始めたんだ。
急性期の「絞り込み」
「急性期病院一般入院基本料」が新設され、救急搬送件数や手術件数などの実績要件が厳格化されました。 単に看護師が多いだけでは「急性期」を名乗れなくなり、実質的な急性期機能(救急・手術)を持つ病院のみが上位の入院料を算定できるようになります。
「なんとなく急性期」の病院は淘汰される…ってことですか? 放射線部門の装置や人員にも影響しそう…。
その通り。国の意図は「高度急性期・急性期」と「高齢者対応・回復期」に明確に振り分けること。実績が伴わない「なんとなく急性期」病院は入院料が下がり、経営が苦しくなる。放射線部門もこの流れの中で、自院がどのポジションに向かうのかを見極める必要がある。
高額機器の共同利用 ― 「持つ」から「シェアする」へ
CT/MRIの撮影料において、「共同利用施設」であるか否かで点数に差がつくようになりました(+20点/件)。 高額装置を自院だけで抱え込まず、地域でシェアすることを強力に促しています。
放射線部門への直接的影響
- 自院が高度急性期を目指す場合:高額装置を集約し、共同利用の「拠点」として機能。地域からの紹介検査を受け入れ、+20点/件の加算 + 遠隔読影の受託で収益を最大化
- 自院が回復期・地域密着型に向かう場合:高額装置を手放し、拠点病院への紹介で「使う側」として連携。装置維持コストの削減と適切な患者紹介が重要に
- どちらの場合も、共同利用の施設基準届出は必須。届け出るだけで上位の点数が適用される可能性がある
高齢者救急の受け皿整備
急性期から外れた軽〜中等症の高齢者救急を受け入れるための「地域包括医療病棟」の評価も見直されています。救急外来での技師常時配置要件(救急外来医学管理料)と合わせて、高齢者救急の受け皿を整備する流れが加速。放射線部門も「救急加算のための技師配置」が経営上の必須要件になりつつあります。
第4の柱:高齢者医療における「生活機能」の重視
4つ目の柱は「治す医療」から「支える医療」へのシフト。リハビリテーション・栄養・口腔を一体的に管理する加算の新設や、身体拘束を行うと減算幅が大きくなる仕組みなど、高齢者のADL(日常生活動作)維持を強力に推進している。
リハビリや栄養は放射線部門とは直接関係なさそうですけど、何か押さえておくべきことはありますか?
直接的な影響は少ないけど、マクロな視点で見ると重要だ。高齢者が入院によって寝たきりになること(医原性フレイル)を防ぎ、早期に在宅へ戻す ―― このサイクルが回ると、入院期間が短くなり、検査のスループットが変化する。放射線部門も外来検査・救急対応のウェイトが増し、入院中の定期検査が減る可能性がある。ワークフローの変化を意識しておくべきだ。
第5の柱:「地域完結型」医療への転換 ― 大病院集中をやめさせる
最後の柱は「地域完結型医療」。大病院への患者集中を防ぎ、地域全体で患者を診る体制を作ろうとしている。これは放射線部門にとっても非常に重要な柱だ。
紹介・逆紹介の推進強化
大病院の「外来診療料」において、紹介なしで受診し続ける患者に対する減算規定が強化されました。 リフィル処方箋で対応可能な安定期の患者を、かかりつけ医に逆紹介する流れを経済的インセンティブで加速させています。
紹介・逆紹介が増えるってことは、放射線部門も「紹介で来る検査」が増えるってことですよね? 共同利用の+20点とも繋がりますね!
まさにその通り。「軽症や安定期の患者はかかりつけ医が診て、専門病院は紹介患者に集中する」。この役割分担が強まると、中核病院の放射線部門には「紹介による検査依頼」が増える。共同利用の+20点加算も、CT/MRI装置の共同利用施設届出も、すべてこの文脈で繋がるんだ。
かかりつけ医機能の強化
「生活習慣病管理料」や「地域包括診療料」の要件が見直され、長期処方やリフィル処方箋の活用、電子処方箋による重複投薬防止など、効率的な慢性疾患管理が求められています。
放射線部門への影響:「地域の画像診断ハブ」になれるか
- 紹介検査の増加:かかりつけ医からの検査依頼が増えるため、予約フローの整備とターンアラウンドタイムの短縮が差別化要因に
- 共同利用施設の届出:第3の柱で述べた+20点/件の加算は、この「地域完結型」の文脈でこそ本領を発揮する
- 遠隔読影の事業化:かかりつけ医(クリニック)には放射線科医がいない → 中核病院の専門医が遠隔読影を受託する需要が拡大
- 地域連携室との協働が不可欠。放射線部門だけで完結する時代は終わり、「地域の画像データを集約し、高度な解析を付加して臨床に返す」ハブ機能を果たすことが生存戦略になる
患者の「財布」と医療機関の「収益」の両面から誘導
紹介なしで大病院を受診する患者には選定療養費が課され、医療機関側にも減算規定が設けられています。つまり国は、患者の自己負担(財布)と医療機関の収益の両面から、地域完結型への転換に強制力を持たせています。この流れは2028年以降の改定でさらに強まると見るべきです。
結論:放射線部門の「生存条件」を読み解く
5つの柱を通して見えてくる国のメッセージは明確だ。「限られた医療資源(人・モノ・金)を、DXと機能分化によって極限まで効率的に運用し、高齢多死社会を乗り切る」。そして医療機関に対しては、「自院の機能を明確にし、地域ネットワークの中に組み込まれること」を生存条件として提示している。
放射線部門に置き換えると、どういうことになりますか?
こうなる ――
①「装置を保有するだけの時代」は終わった。共同利用と遠隔読影で「地域の画像診断ハブ」になる施設だけが、高い点数を取れる。
②DXは「できたらいい」ではなく「やらなければ減収」。クラウドPACS、電子的情報連携、遠隔読影の基盤整備は待ったなし。
③「急性期か回復期か」を見極め、放射線部門の役割を再定義する。高度急性期なら装置集約と救急技師配置、回復期なら紹介検査の効率化。中途半端が一番危険だ。
④人材は「制度」で守られるようになった。ベースアップ評価料と物価対応料を活用し、技師の待遇改善を経営層に求める根拠がある。
今回の改定は「序章」に過ぎない。2028年、2030年と改定が進むたびに、この5本柱の方向性はさらに強まる。今動いた施設が、次の改定でも先行者利益を得る。制度改革は「複利」で効いてくる。だから、今が始めどきなんだ。
Q&A ― 5つの柱を深堀り
物価対応料は病院全体の経営を下支えする仕組みであり、特定の部門や費目に紐づくものではありません。 ただし、CT/MRIなどの高額装置は電気代・冷却水・保守契約に年間数百万円のコストがかかるため、物価対応料による経営基盤の安定は間接的に装置維持を支えます。 経営層への投資要求の際に「物価対応料が経営を支えている今こそ、装置更新の好機」というロジックで活用できます。
救急搬送件数の実績には、救急外来での画像診断(CT/MRI/X線)の迅速な提供が不可欠です。 救急外来医学管理料の施設基準でも技師の常時配置が要件化されており、放射線部門の夜間・休日体制が病院全体の入院料算定の根幹に関わっています。 「技師の当直体制を維持しなければ急性期の入院料が下がる」という経営的ロジックは、人員確保の最強の交渉材料です。
Tele-ICU自体は集中治療領域の制度ですが、「ICTで専門家を遠隔シェアする」モデルが制度として確立されたことが重要です。 今回のIMRT遠隔支援(常勤医1名特例)も同じ発想であり、今後はAI読影支援の遠隔共有、放射線治療の遠隔品質管理、核医学治療の遠隔指導など、放射線領域でも同様のモデルが拡大する可能性があります。 先取りしてDXインフラを整備しておくことが次の改定への備えになります。
中核病院の放射線部門は増加が見込まれます。紹介・逆紹介の推進により、かかりつけ医からの検査依頼(共同利用)が増えるためです。 一方で、安定期の定期検査はかかりつけ医に移管される可能性があり、「紹介初回検査」の増加と「フォローアップ検査」の減少という構造変化が起きます。 予約フローの見直しと、初診向け検査枠の確保が実務的な対応となります。
中医協の議論を追う限り、5本柱すべてが強化される方向です。特に注目すべきは:
- 医療DX:AI読影支援の評価、リアルワールドデータを活用した治療評価、治療計画のクラウド共有に対する加算
- 機能分化:急性期の実績要件のさらなる厳格化、共同利用の義務化に近い方向への移行
- 地域完結型:選定療養費の拡大、紹介率・逆紹介率要件の引上げ
今回の改定で「連携」と「DX」の基盤を作った施設は、次の改定でさらに上位の加算を取りに行ける。制度改革は「複利」で効いてきます。
まとめ ― 5つの柱から導く放射線部門の行動指針
- 【賃上げ】ベースアップ評価料の届出状況を確認:未届出なら事務部門に情報提供。技師の待遇改善に直結する制度を見逃さない
- 【医療DX】クラウドPACS・VPN環境の整備を推進:遠隔読影の事業化、電子的情報連携加算の算定に向けて、IT部門と連携してDX基盤を構築
- 【機能分化】自院のポジションを見極める:高度急性期なら装置集約+救急技師配置、回復期なら紹介検査の効率化。中途半端が最も危険
- 【地域完結型】共同利用の施設基準を届け出る:CT/MRI共同利用で+20点/件。地域連携室と協働し、紹介検査の受入体制を整備
- 【全体】経営層に「制度の方向性」を説明する:点数の話だけでなく「国がどこに向かっているか」を示すことで、中長期的な投資判断を引き出す
| 柱 | 国の方向性 | 放射線部門への影響 |
|---|---|---|
| 第1:賃上げ | 人材確保のための処遇改善義務化 | ベースアップ評価料で技師の月給UP、物価対応料で経営基盤安定 |
| 第2:医療DX | 情報を動かして少ない資源で広域カバー | 遠隔読影の収益化、IMRT遠隔支援、電子的情報連携加算 |
| 第3:機能分化 | 急性期の絞り込みと高額装置の集約 | CT/MRI共同利用+20点、救急技師配置要件、急性期入院料への貢献 |
| 第4:生活機能 | 高齢者のADL維持と早期退院 | 検査ワークフローの変化(外来・救急比率の増加) |
| 第5:地域完結型 | 大病院集中の解消と紹介・逆紹介推進 | 紹介検査の増加、地域の画像診断ハブとしての役割 |
※本記事は2026年度診療報酬改定の答申・個別改定項目資料および中医協の議論に基づく分析です。最終的な施設基準の詳細は、厚生労働省の告示・通知をご確認ください。





















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