技師の知識棚卸し|発信・副業の前にやる1枚

KNOWLEDGE INVENTORY · CAREER & OUTPUT
技師の知識棚卸し|発信・副業の前にやる1枚
「書くことがない」の正体は才能不足ではなく棚卸し不足。検査室で積んだ経験を20領域に並べ、3つ選んで深掘りするまでを1枚で終わらせます。

特別である必要はないんだ。読まれる記事の多くは「誰かが困る場所」を先に通った人の記録だからね。私が最初に書いたのも、息止めが苦手な患者さんへの声かけを変えた話で、学会とは何の関係もなかった。
なぜ「AIに書かせる前」に棚卸しなのか

「書くことがない」ではなく「言語化していないだけ」——自分の強みに気づくLINA
発信や副業を始めようとして最初に手が止まるのは、たいてい「書くことがない」という壁です。ところがこれは経験不足ではなく、経験を言語化していないだけであることがほとんどです。毎日やっている業務は自分にとって当たり前になりすぎて、価値があるものとして目に入らなくなります。
ここで順番を間違えると、成果が出ません。この順番はAIに渡すルールの設計とも共通します。材料を持たないままChatGPTやClaudeに「放射線技師の記事を書いて」と頼むと、返ってくるのは検索すれば出てくる一般論です。読者にとっては既に知っている情報なので、当然読まれません。AIはハルシネーションAIを起こす道具でもあり、あなたが経験していないことを埋めさせるべきではありません。
逆に、自分の中にある具体的な材料を先に並べてから渡すと、AIは非常に強力な整理役になります。棚卸しは材料集め、AIは調理担当という分担です。この順番を守るだけで、出てくる文章の密度が変わります。
20領域に丸を付ける
まず、自分の守備範囲を一覧にします。判断基準はただ一つ、「人に説明できるか」です。得意である必要も、詳しい必要もありません。後輩に聞かれたときに自分の言葉で答えられるなら丸を付けます。判断に迷う領域があれば、スキルハブで全体像を眺めてから戻ってきても構いません。
| 区分 | 領域 | 丸の目安(こう説明できるなら○) |
|---|---|---|
| 患者対応 | 検査説明 | 初めての人に手順と所要時間を説明できる |
| 患者対応 | 前処置の案内 | 絶食・排尿など事前準備の理由を言える |
| 患者対応 | 不安の強い患者への声かけ | 閉所や痛みへの言い換えを持っている |
| 患者対応 | 小児・高齢者の対応 | 年齢に応じた説明の変え方がある |
| 安全 | 被ばく説明AI | 患者さんの「大丈夫ですか」に答えられる |
| 安全 | 造影剤の副作用対応AI | 初動の流れを説明できる |
| 安全 | 金属・体内デバイスの確認AI | 問診で何を必ず聞くか言える |
| 安全 | 妊娠可能性の確認 | 聞き方と配慮の仕方を持っている |
| 撮影技術 | ポジショニングAI | 再現性を出すコツを言語化できる |
| 撮影技術 | 息止めの誘導 | できない人への代替手段がある |
| 撮影技術 | 撮影条件の調整 | 体格差への合わせ方を説明できる |
| 撮影技術 | アーチファクト対処AI | 原因の切り分け手順がある |
| 運用 | トラブル初動 | 装置停止時にまず何をするか言える |
| 運用 | 当直・時間外 | 一人で回すときの優先順位がある |
| 運用 | 救急対応 | 急ぐ検査の判断材料を持っている |
| 運用 | 予約・枠管理 | 混雑を捌く工夫を説明できる |
| 組織 | 学生・新人指導 | 教える順番を決めている |
| 組織 | 多職種連携AI | 看護師・医師への伝え方の型がある |
| 組織 | 勉強会・発表 | 資料を作った経験がある |
| 組織 | 業務改善・品質管理AI | 変えた手順と理由を言える |
丸は2〜3個で十分です。20個すべてに丸が付く人はいませんし、付いたとしても記事は書けません。実際、転職の判断でも棚卸しでも、効くのは網羅ではなく深さです。書けるのは「丸を付けた領域を深掘りできたとき」だけなので、数を競う必要はまったくありません。むしろ丸が少ないほうが、次の深掘りに集中できます。

2つあれば十分だよ。丸の数と発信力は関係ないんだ。20個に丸が付く人は広く浅くなりがちで、かえって「その人にしか書けない話」が出てこない。むしろ1年目のほうが、初めてつまずいた記憶が鮮明なぶん有利なくらいだ。
深掘り3問で「語れる」に変える

3つの問いで経験を深掘りし、「誰にも真似できない一次情報」に磨き上げる
丸を付けた領域は、まだ「知っている」段階です。ここから3つの問いを通すと「語れる」に変わります。これは現場の温度を言葉に戻す作業とほぼ同じで、抽象語を具体的な動作に置き換える工程です。この3問は、そのまま職務経歴書や面接で使われるSTAR法AIの構造にもなっています。
あなたが当たり前にできることの中で、初心者が必ず引っかかる場所です。ここが読者の検索する言葉になります。
手順書には書かれていない観察ポイントです。経験者だけが持つ暗黙知AIで、記事の核になります。
改善の前後があると説得力が出ます。失敗そのものではなく変更した手順を書くのがポイントです。
3問を通すと、抽象的だった領域が具体的な素材になります。実際に変換するとこうなります。
| 丸を付けた領域 | 3問を通したあと(=書けるテーマ) |
|---|---|
| 息止めの誘導 | 息止めが苦手な患者さんへの段階練習。声かけを3回に分ける手順と、それでも難しいときの代替 |
| 当直・時間外 | 当直帯で他職種へ連絡するときのテンプレ。何を先に伝えると話が早いか |
| 学生・新人指導 | 学生に教えるプロトコルの順番。なぜ最初に装置説明をしないほうがいいか |
| 検査説明 | 「痛くありません」をやめた理由と、代わりに使っている言い換え |
件数や規模を書こうとしないでください。「年間5,000件の検査を担当」は立派ですが、読者にも採用担当にも再現できません。それより「つまずきを1つ減らすために変えた手順」のほうが、はるかに価値が伝わります。転職の判断軸を考えるときも同じで、数字より再現性が効きます。
出せない情報に線を引く
ここが棚卸しで最も重要な工程です。書き始めてから迷うのではなく、材料を並べた段階で除外しておきます。医療文をAIに書かせたときの最終読影でも、最後に効くのはこの線引きです。診療放射線技師には診療放射線技師法 第29条で守秘義務が定められており、「正当な理由がなく、その業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない」とされています。この義務は資格を離れたあとも続きます(同条後段)。
加えて、患者さんの病歴や検査結果は要配慮個人情報にあたり、取り扱いには医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス(個人情報保護委員会・厚生労働省)が適用されます。
| 出せない情報 | なぜ危険か | 一般化した書き方 |
|---|---|---|
| 特定できる症例の経過 | 年齢・性別・時期が揃うと本人が特定されうる | 「造影後に気分不良を訴えた方」など条件のみ |
| 勤務先が分かる記述 | 施設が特定されると患者も特定されやすくなる | 「一般病院の日中帯では」と規模で表す |
| 装置の型番と運用の組合せ | 施設の特定につながることがある | 「マルチスライスCTでは」とモダリティ名まで |
| 院内の人間関係・体制批判 | 関係者が読めば誰の話か分かる | 課題の構造だけを書き、固有の事情は外す |
| 撮影画像そのもの | 画像は個人情報であり、無断使用はできない | 使わない。必要なら模式図を自作する |
迷ったら出さない。これが唯一の安全側の判断です。一般化して書けないなら、その素材は今回は使わないという選択で構いません。棚卸しの目的は書ける材料を見つけることであって、書けない材料を無理に加工することではありません。知識を資産に変えるコンテンツ制作術とあわせて、勤務先の就業規則も先に読んでおくと安心です。

目安としては、読んだ同僚が「あの患者さんだ」と分かったらアウトだと考えるといい。だから具体的に書くのは症例ではなく手順のほうなんだ。「造影後に気分不良の訴えがあったとき、まず何を確認するか」は具体的に書けるし、そこにこそ読者の知りたいことがある。
完成条件を確認して1本目を決める

棚卸しシートの完成条件をクリアし、自信を持って1本目の発信テーマを決める
1枚が完成したかどうかは、次の4つで判定します。すべて埋まっていれば、そのまま書き始められる状態です。
丸ではなく、深掘り3問を通した領域の数で数えます。
「いつ・何に困り・どう変えたか」が1行で言えること。求人票を読むときと同じ粒度です。
除外した項目が明示されていること。未判断のまま残さない。
3つのうち、いちばん手順を具体的に書けるものを選びます。
1本目に選ぶのは、いちばん実績のある領域ではなくいちばん手順を細かく書ける領域です。読者が求めているのは権威ではなく再現性なので、そのほうが最後まで書き切れます。書く場所を決めかねているなら、病院の外の選択肢を眺めて、誰に向けて書くかを先に決めるのも手です。書き上げた1枚は捨てずに残しておいてください。同じ材料が求人票を読むときの判断材料にも、面接で聞かれたときの答えにもなります。この考え方はポータブルスキルAIの棚卸しとしても知られています。
理解度チェック
よくある質問
できます。むしろ2つのほうが深掘りに集中できて有利です。記事が書けるかどうかは丸の数ではなく、深掘り3問に答えられるかで決まります。2つの領域それぞれについて「つまずく場所・判断の根拠・変えた手順」が言えるなら、記事は2本以上書けます。
同僚が読んで「あの患者さんだ」と分かる粒度に達したらアウトだと考えてください。年齢・性別・時期・疾患が揃うと特定されやすくなります。医療・介護関係事業者向けガイダンスが判断の基礎になります。迷った時点で出さないのが安全側です。
壁打ち相手としては有効です。「この領域で初心者がつまずく場所を10個挙げて」と聞き、当てはまるものを自分で選ぶ使い方なら問題ありません。ただし経験していないことを書かせるのは不可です。実体験のない記述は面接でも読者にも見抜かれます。線引きはAIの責任分界の考え方が参考になります。
あります。むしろ1年目〜3年目は「初めてつまずいた記憶」が鮮明なので、初学者向けの記事は書きやすい立場です。ベテランほど当たり前になりすぎて、どこが難所だったか思い出せなくなります。患者さん向けにどう言い換えるかは検査Q&Aの書き方が参考になります。今のうちに記録しておく価値があります。
使えます。深掘り3問はそのまま「課題・行動・結果」の構造になっているため、職務経歴書のエピソード欄や面接の回答にほぼそのまま転用できます。発信用と転職用で材料を作り分ける必要はありません。
参考文献
- e-Gov法令検索: 診療放射線技師法 第29条(秘密を守る義務)(昭和26年法律第226号)
- 個人情報保護委員会・厚生労働省: 医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス
- 厚生労働省: 厚生労働分野における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン等
- 公益社団法人 日本診療放射線技師会: 日本診療放射線技師会(JART)公式サイト




