心臓CTで不整脈を撃つ|VT定位放射線治療(STAR)の標的設計
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心臓CTで不整脈を撃つ|VT定位放射線治療(STAR)の標的設計
治療部門に来て半年のLINAが、心臓の話に身構えながら質問し、ラッコ先輩が対話形式で答えていきます。
5分でわかる心臓と心電図|この記事を読むための最低限
心臓が専門でない技師でも、ここだけ押さえれば以降の話が追えます。もっと詳しく知りたい人は、波形の読み方から書いた心電図とVTのきほんを先に読むのがおすすめです。
心臓は4つの部屋と、電気の配線でできている
心臓には右心房・右心室・左心房・左心室の4つの部屋があります。全身に血液を送り出す左心室は壁がいちばん厚く、STARの標的になるのもほとんどがこの左心室の壁(心筋)です。左心室の壁は、画像検査どうしで位置を共通の言葉で呼べるように、17の区域(セグメント)に分ける方法が標準化されています[25]。治療計画の報告でも「下壁」「中隔」といった区域名で標的の場所が語られます。
心臓が規則正しく縮むのは、電気の配線があるからです。右心房の洞結節が1分間に60〜100回ほど電気を出し、房室結節で少し待ってから、ヒス束・右脚と左脚・プルキンエ線維を通って心室全体へ一気に広がります。この配線を刺激伝導系と呼びます。

心電図の3つの山:P・QRS・T
心電図は、この電気の流れを体の表面から記録したものです。P波は心房が興奮したとき、QRS波は心室が興奮したとき、T波は心室が元に戻るときの波です。心電同期CTが基準にするR波は、QRS波のいちばん高い山を指します。正常なQRS波は幅が狭く、心室性の興奮は幅が広くなります(目安は120ミリ秒以上)[10]。
波形は説明のための模式図で、実際の患者の記録ではありません。上段は洞調律(約75回/分)。P波のあとに幅の狭いQRS波が規則正しく続く。下段は単形性の心室頻拍(約180回/分)。P波が見えず、幅の広いQRS波が同じ形で速く続く。横軸の1目盛は0.2秒(記録紙の大きいマス1つ分)。
VT(心室頻拍)とは:心室から出る速いリズム
欧州心臓病学会(ESC)の2022年ガイドラインは、VTを「心室から出る興奮が、1分間に100回を超える速さで3拍以上続くもの」と定義しています。30秒以上続くか、止めるのに処置が必要なものを持続性、3拍から30秒未満で自然に止まるものを非持続性と呼びます。24時間以内に3回以上、処置が必要な心室性不整脈が起きる状態は電気的ストームです[10]。STARの対象は、薬やカテーテル治療を尽くしても持続性VTを繰り返す、重い患者さんです。
VTの多くは、心筋梗塞や心筋症でできた瘢痕(はんこん)の縁から起こります。瘢痕の中には電気がゆっくりしか通らない細い通り道が残り、そこを電気がぐるぐる回り続ける(リエントリー)と、心室が勝手に速いリズムを刻み始めます[10][12]。STARは、この通り道を含む心筋に放射線を当てて回路を断つ治療です。
ICD:VTを止め、記録する装置
VTを繰り返す患者さんの多くは、植込み型除細動器(ICD)を持っています。ICDはVTを感知すると、設定にもよりますが、まず速いペーシング(抗頻拍ペーシング、ATP)で止めようとし、止まらなければ電気ショックをかけます。作動のたびに記録も残ります。STARの効果は、このICDの記録でVTが何回起きたかを数えて判定します[1][2]。つまり標的のすぐ近くに金属のリードが必ずあるということで、これが後の章で効いてきます。
Q1 VTとVF(心室細動)は何が違うの?
VTはQRS波の形が分かる、まとまった速いリズムです。VFはQRS波の形がなくなり、波の高さも間隔もばらばらになった状態で、心臓は血液をほとんど送り出せません。ESCの定義でも、VFは「はっきりしたQRS波のない、不規則な波」とされています。STARの対象はVTです。
Q2 カテーテルアブレーションと何が違うの?
カテーテルアブレーションは、血管から管を入れて心臓の内側から焼く治療で、VT治療の中心です。STARは、それが効かなかった・できなかった患者さんに体の外から照射する方法として研究されています。2026年に報告された比較試験(途中で中止)では、むしろカテーテルの再治療のほうが有利な可能性が示されました(03章)。
Q3 日本でも受けられるの?
日本循環器学会と日本不整脈心電学会の2024年のガイドラインは、2024年2月時点で国内未承認の治療で、多くの臨床研究が進んでいると書いています。国内の前向き研究の報告も2026年に出ています(03章)。
なぜ「心臓CT=冠動脈」という前提が崩れたのか
心臓CTを撮る理由を聞かれたら、多くの技師は「冠動脈の狭窄評価」と答えます。被ばくも造影も撮像位相も、その目的に合わせて最適化されてきました。
2017年、New England Journal of Medicineに5例の臨床研究が載りました。薬もカテーテルアブレーションも効かないVTの患者さんに対し、体表面の電位マッピングとCTを組み合わせて不整脈の起源を特定し、25 Gyを1回、体の外から照射したのです[1]。
治療前の3か月に5例合計で6577回あったVTは、照射後6週間の「ブランキング期間」(照射直後の炎症で不整脈が出やすいため評価から除く期間)のあと、46患者月で4回まで減りました。照射時間は平均14分(11〜18分)で、患者さんは目を覚ましたまま治療を受けています[1]。
この治療はSTAR(Stereotactic Arrhythmia Radioablation、定位不整脈焼灼)と呼ばれます。うまくいくかどうかは、放射線腫瘍医の技術より前に、「撃つべき心筋をCTの上に正しく描けるか」という画像の問題にかかっています。ここが技師の出番です。
心電同期の2方式を、標的定義の目的から選び直す
心電同期にはprospective(前向きトリガ)とretrospective(後ろ向きゲート)の2方式があります。冠動脈評価では、この選択は「線量をどこまで下げられるか」の話として語られてきました。
prospective はR波を基準に、狙った位相だけX線を出します。管球を必要な瞬間だけ使うので線量が低く、狭窄の有無を見るだけなら第一選択になります。どれだけ下がるかは装置の世代や列数、撮影条件で大きく変わるので、自施設で実測した値で把握しておくべき数字です。
retrospective は全位相を連続して集め、あとから好きな位相で再構成します。壁の動きや心機能を評価でき、不整脈があっても位相を編集して救える代わりに、線量は大きくなります。
模式図。濃い帯が prospective で X線を出す位相(ここではR波から70〜80%の拡張期の例)。薄い帯が retrospective で、心周期の全体を集める。位相の窓の幅と位置は装置・施設のプロトコルで異なる。
ここで、目的によって評価が逆転します。冠動脈評価では「低線量で足りるなら prospective」が合理的でした。STARの標的定義では、標的が心周期のどこからどこまで動くかを知る必要があります。動く範囲を包んで内部標的体積(ITV)を作るには、複数の位相の情報が欠かせません。
とはいえ「治療計画なら常に retrospective」とも言い切れません。VTの患者さんは不整脈を持つ患者さんそのもので、心電同期の前提が崩れやすい集団です。同期がうまくいかなかったときの対処まで、撮る前に決めておく必要があります。
| 観点 | 冠動脈CTA(診断) | STAR計画CT(治療) |
|---|---|---|
| 見る対象 | 血管の内腔(狭窄率) | 心筋の壁そのもの(形と位置) |
| 体位 | 検査室の標準体位 | 治療時と同じ(固定具あり) |
| 同期方式 | prospective で低線量が有利 | 動く範囲を知るため全位相が有利 |
| 被ばくの優先度 | 最小化が基本 | 標的を取り違えないことが優先する場面あり |
| 造影 | 内腔を描くため必須 | 輪郭用と線量計算用で使い分け |
| 金属の扱い | アーチファクト低減で読みやすさを優先 | CT値の正しさが線量の正しさに直結 |
25 Gyを1回、という治療はどこまで裏が取れているのか
STARを語るときは、どこまでが確かめられていて、どこからが未確定かを先に押さえます。症例報告の印象で語ると危うい分野だからです。
前向き試験の基準点は、2019年にCirculationに載ったENCORE-VT試験(第I/II相)です。19例(VT 17例、心室期外収縮による心筋症2例)に25 Gyを1回照射し、照射時間の中央値は15.3分(5.4〜32.3分)でした。VTの回数は中央値119回から3回に減っています(P<0.001)。一方で、90日以内に治療に関連した重い有害事象が19例中2例(10.5%)に起きています[2]。
2025年には、前向き試験10本・82例をまとめたメタ解析が出ました。VTが75%以上減った患者さんの割合は80%でしたが、1年間再発しなかったのは30%、1年生存率は73%でした。著者らは、STARはまだ研究段階の治療と考えるべきだと結論しています[13]。2026年の別のメタ解析(22研究・215例)でも、VTの回数は81.5%、ICDのショックは84.7%減った一方、追跡の終わりにVTがまったくなかったのは23.1%にとどまりました[14]。
同じ2026年には、欧州28施設・193例の前向き登録(STOPSTORM.eu)の中間解析が European Heart Journalに載りました。平均年齢68±9歳、男性88%、非虚血性心筋症53%。6か月以上追えた107例で、VTの頻度は中央値で80%減っています[3]。
「回数は大きく減るが、ゼロにはなりにくい」というのが、現時点のデータの読み方です。亡くなる方が多いのも、もともと重い心不全を抱えた集団だからです。16研究・157例をまとめた解析では1年死亡率が32%で、死因の約半分は心不全の悪化でした[26]。
初めての比較試験は、途中で止まった
2026年、カテーテル治療が効かなかった患者さんを、STAR群とカテーテル再治療群に1対1で割り付けたSTAR-VT-2020試験の結果が出ました。22例(各11例)を平均28か月追ったところ、STAR群はVT再発のリスクが高い傾向(ハザード比2.5、95%信頼区間0.97〜6.6、有意差なし)で、カテーテル再治療が必要になるリスクは有意に高い結果でした(同4.0、1.2〜13.8)。試験は早期に中止されており、著者ら自身が結果は探索的で、仮説を立てる材料として読むべきだとしています[15]。
国内の報告
国内では、2019〜2024年に8例を登録した前向き研究の最終解析がCirculation Journalに載りました。照射範囲(PTV)の中央値は88.9 cc、治療に関連した有害事象は軽い吐き気1例だけで、ICDショックの抑制率は6か月で73.6%、1年で76.8%でした。2年以内に3例が亡くなっていますが、いずれも治療前から進んだ心不全がありました[16]。
CyberKnifeで3例を治療した別の国内研究では、1年以内に重い(グレード3以上の)有害事象はありませんでした。ただし標的が133 mLと大きかった肥大型心筋症の1例で、左室の駆出率が24か月で59.7%から40.0%まで下がっています。著者らは、大きな標的では長期の追跡と心筋を守る工夫が要るとしています[17]。
- 2017 最初の5例(NEJM) 25 Gy×1回。VTが6577回から4回に
- 2019 ENCORE-VT(第I/II相) 19例。重い有害事象10.5%
- 2024 JCS/JHRS ガイドライン 国内では未承認・臨床研究が進行中と記載
- 2025 EHRA/HRS 合意文書・メタ解析 患者選択と標的データの受け渡しを標準化。1年非再発30%
- 2026 STOPSTORM.eu・STAR-VT-2020・国内報告 193例の登録、初の比較試験(中止)、国内の前向き研究
なぜ25 Gyの1回照射で不整脈が止まるのか
腫瘍に対するSBRTは、細胞を死なせることで効果を出します。STARの標的は患者さん自身の心筋なので、「心筋を殺して効かせる」という説明は直感に合いません。
実際の効き方も腫瘍とは違います。腫瘍は照射後に数週間から数か月かけて縮みますが、STARではVTの抑制が照射後早い段階で現れると報告されています。線維化で瘢痕ができあがるより明らかに早いのです。
2026年の総説は、照射直後の効果は細胞の死による組織の置き換えより、心臓の伝導に関わるタンパク質の発現の変化(modulation of cardiac conduction proteins)による可能性を挙げています。電気の通り方が変わることで、リエントリーの回路が成り立たなくなるという考え方です。そこに遅れて、線維化を含む構造の変化が加わると考えられています。ただし長期の効果は「なお検証中」と総説自身が書いています[4]。
この話が実務に効くのは、照射直後に効果が出なくても失敗とは限らない、と分かる点です。照射後の炎症期には一時的に不整脈が増えることがあるため、ENCORE-VTも最初の5例の報告も、6週間のブランキング期間を置いてから効果を評価しています[1][2]。
標的はCTだけでは決まらない|電気の地図との統合
STARの計画CTが普通の心臓CTと決定的に違うのはここです。撃つべき場所は、CTの画像所見だけでは決まりません。VTの通り道は電気の性質の異常で、CTの上で「ここが光る」という形では見えないことが多いからです。
そこで、カテーテルで心臓の内側の電位を点ごとに測った電気解剖学的マッピング(EAM)を計画CTに重ねます。電位が低い場所が瘢痕、その縁の遅れて出る電位が標的の候補、という電気の地図を、CTの解剖の上に写す作業です。2025年に欧州不整脈学会(EHRA)と米国不整脈学会(HRS)が出した合意文書は、患者選択から標的の描き方、マッピングのデータを計画装置へ渡す手順までを整理しています[12]。
2024年にMedical Physicsに載ったワークフローでは、心臓の構造を計画CTから深層学習で自動抽出し、EAMを点群の位置合わせでCTに合わせ、PETは剛体の位置合わせで重ねます。そのうえでEAM・PET・心筋の厚みを左心室の表面に投影し、1枚の統合表示を作ります。循環器医4人が3例で試したところ、医師ごとの標的のばらつきが小さくなりました(ダイス係数の平均0.62対0.32)[5]。無料のソフト3D Slicerを使ってEAMをCTに重ねた報告では、位置合わせの平均距離は3.1 mmでした[7]。
技師にとっての意味ははっきりしています。計画CTの画質が悪ければ、電気の地図を重ねる下地そのものがゆがみます。心内膜と心外膜の境が見えなければ、自動抽出も位置合わせも精度を失います。撮影の良し悪しが、そのまま標的の位置の正確さに伝わります。
flowchart TD
A["心電同期CT(各位相)"] --> D["計画CTに位置合わせ"]
B["EAM(電気の地図)"] --> D
C["PET(任意)"] --> D
D --> E["心筋の表面に情報を投影"]
E --> F["標的(不整脈の通り道)を描く"]
F --> G["呼吸と拍動を包んでITVを作る"]
G --> H["25 Gyを1回照射"]
CTだけでは標的が決まらず、電気の情報との統合が前提になる。Rigalらのワークフロー[5]をもとに簡略化した。
心拍と呼吸|二重の動きをどう畳むか
肺や肝臓のSBRTで扱う動きは、主に呼吸による移動の1種類です。心臓は呼吸で動き、さらに自分でも拍動しています。周期も振れ幅も別々なので、どちらか一方を抑えても標的は止まりません。
呼吸の側は、放射線治療の既存の枠組みで扱えます。AAPM TG-76は呼吸性移動の管理法を、動きを包む方法(4DCTで動く範囲を捉えてITVを作る)・呼吸同期(ゲーティング)・息止め・腹部圧迫などで浅い呼吸にする方法・呼吸に合わせた追尾の5つに整理しています[9]。心臓のSTARでは、深吸気の息止め(DIBH)で胃の線量を下げた例も報告されています[8]。
では実際、標的はどれくらい動くのでしょうか。STOPSTORM.euの61例の解析では、標的(PTV)の動きの95パーセンタイル値の中央値は、自由呼吸で6.0 mm、腹部圧迫で5.6 mm、息止めで4.9 mmと、方法による差は小さいものでした。いちばん大きく動いたのは左心室で、それぞれ6.8 mm、5.5 mm、5.9 mmでした[18]。
STOPSTORM.eu の61例(自由呼吸+ITV 25例、自由呼吸+追尾 11例、腹部圧迫 10例、息止め 15例)。van der Pol ら(2026)[18]の抄録の値。
同じ研究で、動きを反映した線量を積み上げると、計画どおりの線量からどれだけずれるかも調べています。標的への線量の当たり具合(コンフォーミティ指数)は、自由呼吸+ITVで7.2%、腹部圧迫で14.1%、息止めで4.3%、自由呼吸+追尾で1.3%下がりました。動きの影響をはっきり抑えられたのは追尾だけでした[18]。
計画した線量と、動きを反映して積み上げた線量のコンフォーミティ指数の差(中央値)。van der Pol ら(2026)[18]の抄録の値。
マージンの付け方も研究が進んでいます。心臓の動き1050通りと呼吸の動き8通りを組み合わせた2025年の研究では、心臓と呼吸の振れ幅を単純に足すと、必要なマージンを各方向で2〜3 mmほど大きく見積もり過ぎていました。呼吸の振れ幅だけで済ませると、平均では足りても、最大5 mm足りないことがありました。マージンの式(van Herkの式)で計算すると、ほぼぴったり合ったと報告されています[19]。
13研究・126例の照射範囲をまとめた2026年の解析では、臨床標的体積(CTV)から最終的な照射範囲(PTV)までの体積の膨らみは平均2.8倍でした。心拍と呼吸のぶん(ITV/CTV)が1.9倍、照射の不確かさのぶん(PTV/ITV)も1.9倍で、PTVの平均は施設によって9倍も違いました[20]。
見落とされやすい誤差もあります。CyberKnifeのような追尾照射では、ICDのリードの先端を標的の代わりの目印として追うことがあります。ところが目印と標的の位置関係は、呼吸の位相によって変わります。2022年の報告では、呼気と吸気の息止めに、自由呼吸の3系列を加えて撮り、脊椎・目印・標的近くの構造の3通りで位置合わせをして、この変形を実測してから標的に織り込む方法が提案されています[6]。
計画CTの撮影で、実際に何を揃えるのか
標的定義の流れを撮影の系列に落とすと、技師が用意するものが見えてきます。施設によって差はありますが、共通する部品は整理できます。
まず計画CT(基準になる系列)です。治療計画装置が線量計算に使う画像で、治療体位・固定具・アイソセンタの基準になります。診断CTの体位ではなく、治療のときと同じ体位で撮ります。腕の位置や固定具、呼吸の状態がずれれば、計画そのものが使えません。
次に心電同期の各位相の系列で、拍動による動く範囲をつかみます。そして呼吸位相の系列です。2022年のCyberKnife追尾の報告では、呼気と吸気の息止め、自由呼吸3系列の計5系列を撮り、計画CTに位置合わせしています[6]。DIBHを使った報告では、息止め・呼気止め・4DCT(腹部圧迫なし/あり)の4通りを撮り比べ、標的と胃の距離がいちばん離れた深吸気の息止めで計画を立てています[8]。
施設によってはPETも加えます。瘢痕の代謝の情報を標的に反映させるためです[5]。STARの計画CTは「1回撮って終わり」ではありません。あとで位置合わせすることを前提に、複数の系列を撮るという発想が要ります。脊椎、ICDのリード、心臓の特徴的な構造といった位置合わせの基準が、どの系列でも同じように写っているかが後工程の精度を決めます。
ICDアーチファクト|撃つ相手のすぐ隣に金属がある
STARの対象になる患者さんは、ほぼ全員がICDを持っています。ICDがVTを記録しているから適応が決まり、効果もICDの記録で判定します[1][2]。リードは右心室などに留置され、まさに照射しようとする心筋の近くにあります。
金属のアーチファクトは二重に問題を起こします。ひとつは、標的の周りの心筋が筋状の影(ストリーク)で隠れ、輪郭が描けなくなること。もうひとつは、CT値がゆがんで線量計算そのものが狂うことです。治療計画装置はCT値を電子密度に変換して線量を計算するので、CT値の誤りは線量の誤りに直結します。
対策として金属アーチファクト低減(MAR)の再構成や仮想単色画像(VMI)が挙がりますが、ここに落とし穴があります。MARは見た目を整える処理で、CT値を治療計画に使える正しさへ戻すとは限りません。低減した画像を線量計算に使ってよいかは、CT装置と治療計画装置の組み合わせごとに検証が要ります。輪郭を描く画像と線量を計算する画像を使い分けるのが現実的です。
ICD本体の管理も欠かせません。AAPMのTG-203は、植込み型の心臓デバイスを持つ患者さんの放射線治療について、デバイスの故障のしかたを分析し、治療の全工程での管理の枠組みを示しています[24]。照射中のデバイスの確認と循環器チームとの連携は、画像の話ではなく体制の話です。
周りの臓器と長期の安全性|心臓の隣には守るものしかない
肺のSBRTなら、標的の周りにある程度の余裕があります。心臓は違います。標的の四方は、線量を入れたくない構造ばかりです。
長期の安全性のデータも出始めています。26例を中央値36か月追った2施設の研究では、治療に関連した重い有害事象が6件あり、いずれも対処できて、治療による死亡はありませんでした。重い心膜液がたまった2例では、心臓全体の平均線量が10.3 Gyと11.2 Gyで、たまらなかった患者さんの6.1 Gy(2.8〜13.4 Gy)より高かったと報告されています。著者らは、STAR専用の線量の目安はまだ決められないとしつつ、弁の障害と心膜液に注目した心エコーでの経過観察を勧めています[22]。照射から2年後に心室中隔に穴があいた例も報告されています[23]。
計画の立て方もまだ揃っていません。欧州のSTOPSTORM.euのベンチマーク研究では、ビームの組み方や線量計算、処方のしかたでは強い合意が得られた一方、心臓の中の構造ごとの線量制約と、標的内の線量のばらつきの許容範囲には合意できませんでした。標的内の最大線量は施設によって25.5〜34.6 Gyまで開き、動きの補正や位置合わせを除いた照射時間の見積もりは2〜80分と幅がありました[21]。
技師の側から言えば、これらの臓器が計画CTではっきり描けているかが、輪郭の精度を決めます。食道の走行、胃の位置、冠動脈の走行があいまいな画像では、守るべきものを守る計画は作れません。
CT値から電子密度へ|治療計画の土台はどの部位でも共通
ここまでSTAR固有の話を続けてきましたが、線量計算の根っこは放射線治療全般と同じです。治療計画装置はCT画像をそのまま使わず、CT値(HU)を相対電子密度に変換してから線量を計算します。この変換の精度が、線量の精度の上限を決めます。軟部組織・血液・脂肪、そして金属が混ざる心臓では、変換の素性を理解しているかどうかが効いてきます。変換曲線が2段階の折れ線になる理由や、デュアルエナジーCTでの電子密度の求め方は、CT値と電子密度の関係で詳しく扱っています。
STARを特別な治療として切り離すより、「治療計画CTのなかで、いちばん動きが激しい応用例」と位置づけたほうが、現場の知識として応用が利きます。出力校正やリニアック標準計測法24、装置の精度管理(TG-142とJASTROのQAガイドライン)の上に、この治療も乗っています。
撮る前に決めておくこと
STARの計画CTを頼まれたら、撮影室に入る前に確認したい項目です。どれも撮ってから気づいても取り返しがつきません。チェックはこの端末にだけ保存されます。
本記事のまとめ
PHYSICS CT値と電子密度の関係 変換曲線・不均質補正・デュアルエナジーCTまで。線量計算がCT値にどう依存するか。 解説を読む →
GUIDELINE 治療技師が最初に読むAAPM TGレポート TG-51・142・218・101・100の要点と読む順番。 解説を読む →
CERTIFICATION 心電図検定3級の攻略 放射線技師が心電図を体系的に学ぶなら、検定を目標にするのが近道。 解説を読む →参考文献
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確認日:2026年10月31日。数値はPubMedの抄録と各ガイドラインの本文で照合しました。Epub ahead of print の論文は、正式な巻号が決まると書誌が変わることがあります。本記事は技師向けの解説で、個々の患者さんの治療方針を示すものではありません。









