2026年7月25日 業界動向・ニュース解説 超入門・解説
超入門医療費の概算要求額と病院経営の関係――コメディカルのための超入門
国の予算づくりが、給料袋と撮影室の前提をどう決めるのか
「概算要求」「自然増」「本体改定率」——字面だけで遠ざかりそうな言葉たち。でも結論はシンプルです。病院のお金の前提は、国の予算づくりにある。ここを押さえれば、給料袋と撮影室の話まで一本でつながります。用語は後半のミニ辞典でもおさらいできます。

予算資料を手元に、医療費の流れを整理するLINA

LINA
ゆんさん、休憩室で『概算要求がどうとか』って話してる人いたんですけど……なにそれ、宿題ですか?

YUN
宿題、と言えば宿題だね。国の各省が『来年これだけお金ください』って出す見積もりのこと。遠い話に聞こえるけど、リナの給料やCT更新の空気にもつながるよ。

LINA
え、私の給料に? 政治の話、苦手なんですけど大丈夫ですか……。

YUN
大丈夫。暗記は不要。地図だけ持てばいい。今日は『お小遣い・宿題・給料袋』のたとえでいこう。
そもそも医療費はどこから来るの?
まず土台。病院で使うお金(人件費も装置も材料も)の源流は、国全体の医療費の財布と同じです。大きく分けると保険料・税金(公費)・窓口負担の三層。厚生労働省の国民医療費でも、だいたい保険料が約5割、公費が約4割、患者負担等が約1割、というイメージでつかめます。

LINA
窓口で払うお金が全部、だと思ってました……。あれ、実際は一部なんですね。

YUN
そう。家計簿でいうと、自分の財布だけじゃなくて『保険の会費』と『税金の支え』が一緒に払ってくれてる。病院側から見ると、売上の本体は診療報酬(点数×回数)。窓口が何割でも、請求の土台は公定価格なんだ。

LINA
だから『国が医療にいくら用意するか』が、撮影室の人員や装置の話になるんですね。

YUN
その通り。遠い霞が関の話じゃなくて、現場の前提条件。ここが今日の出発点。
- 保険料:働く人と事業主の「医療の会費」(全体の約半分イメージ)
- 税金(公費):国と地方が税で支える分(全体の約4割イメージ)
- 窓口負担:受診した本人が払う分(全体の約1割イメージ)
図1|国民医療費の財源イメージ(三層)
保険料 約5割 公費 約4割 窓口等
約1割
保険料(会費) 税金=公費 窓口負担等
※厚生労働省「国民医療費」の財源区分を、現場向けに丸めたイメージ図。年度で割合は変動します。

LINA
三層って覚えると、なんか安心します。お金が『空から降ってくる』んじゃないんだって。

YUN
その感覚が大事。打ち出の小槌はないから、どこかを厚くすれば別のところに負担が寄る。だから国の議論はいつも真剣なんだよ。
「概算要求」ってなに? 国の夏休みの宿題
概算要求は、各省が財務省に出す「来年これだけ必要です」リストです。ただし出した額がそのまま通るわけではありません。夏に範囲(基準)が示され、秋冬に削られ、年末〜年明けに固まる、という一年の宿題です。

LINA
夏休みの宿題って、先生が『このページまで』って範囲出すやつですよね。

YUN
うん。財務省が先生役で、概算要求基準が範囲。厚労省などの各省が提出して、採点と削り込み(査定)がある。

LINA
その前に『骨太の方針』ってよく聞くんですけど、なにですか?

YUN
宿題の方針書だね。正式には『経済財政運営と改革の基本方針』。骨太の方針2026は2026年7月21日に閣議決定されたよ。副題に『責任ある積極財政』元年、とある。

LINA
じゃあ順番は……骨太 → 要求のルール → 各省が提出 → 冬に削る → 国会、ですか?

YUN
完璧。夏の数字は入口、冬が本番。『概算要求で増えたらしい』だけで安心しないのがコツ。
💡 一年の流れ(超要約)
- 骨太の方針:政府の大方針(例:2026年7月21日閣議決定)
- 概算要求基準:各省が要求できる枠のルール(社会保障は「自然増」が注目)
- 概算要求:夏〜初秋に各省が提出する見積もり
- 査定〜予算成立:秋冬に削り込み → 政府案 → 国会で確定
図2|国の予算づくり(一年の宿題)
※夏の数字は入口。確定は冬〜年明け。要求額=決定額ではありません。

LINA
なるほど。ニュースで『増えた』って聞いても、まだ途中経過なんですね。

YUN
そう。だから現場は、夏で温度感を見て、冬で確定を見る。二段構えが楽だよ。
医療費の「自然増」という魔法の言葉
自然増とは、制度を大きく変えなくても、高齢化や医療の高度化で毎年ふくらむ社会保障費の伸びのことです。予算の議論では「どこまでを自然な増加として認めるか」が焦点になります。

LINA
自然に増える……魔法みたいな名前ですね。いいことですか?

YUN
魔法というより現実。お年寄りが増えれば医療・介護は増えるし、良い薬や機器が増えてもお金はかかる。財務省の令和8年度の説明では、いわゆる自然増は+4,000億円程度(年金スライド分を除く)と整理されてる。令和9年度向けの議論でも、だいたい前年度並みの約4,000億円程度が意識されてるよ。

LINA
昔はもっと厳しかった、って聞いたことあります。

YUN
小泉政権の頃の骨太の方針2006では、社会保障の伸びを毎年2,200億円くらい圧縮する方針があった。現場にはきつい効率化の時代だね。今は『高齢化分はある程度認める/でも効率化もする』に近づいてる、という大まかな流れ。

LINA
じゃあ自然増が認められたら、給料も上がるんですか!?
⚠️ よくある誤解(ここ大事)「国の医療費総額が増える=病院の収入や技師の給料が増える」ではありません。社会保障費は医療・介護・年金などを含む大きな袋。病院の収入は主に診療報酬の点数×回数。総額が増えても、配分やコストで現場の手取り感は厳しくなり得ます。
図3|総額が増えても、給料に直結しない理由
国の
社会保障費
→
医療・介護
年金など配分
→
診療報酬
点数×回数
→
病院の
医業収入
→
人件費・
装置更新
袋(総額)が大きくても、途中の配分・改定・コストで現場の手取り感は変わります。

YUN
残念ながら直線じゃない。袋が大きくなっても、撮影室に落ちる水が同じとは限らない。総額より中身(配分)を見るのがプロの習慣だよ。

LINA
総額ニュースで一喜一憂しない……メモします。
診療報酬改定が病院の「給料袋」を決める
国の予算の結果は、原則2年に1度の診療報酬改定で病院の収入に効きます。一般撮影もCTも点数(公定価格)があり、改定は病院の売上そのものに関わります。給料そのものを自動決定はしませんが、原資の空気はここから来ます。

LINA
改定率って、いつも『プラス◯%』って見出しになりますよね。

YUN
見出しは入口。中身は本体改定率と薬価改定率に分けるのが基本。本体=技術料など『医療の仕事の値段』。薬価=薬や一部材料の値段。

LINA
本体がプラスでも、薬価がマイナスだと手応えが薄い……?

YUN
よくある。現場の『改定あったのに忙しいまま』の一因。財務省の解説では、令和8年度は診療報酬改定率+3.09%(8・9年度の2年平均)、薬価等改定▲0.87%、と分けて示されてる。数字より分けて読む癖が大事。

LINA
私たち放射線科だと、全体の%より何が効くんですか?

YUN
個別項目。画像の評価、入院の評価、効率化メニュー……。自施設で算定してる主要項目の棚卸しができると、『国の改定』が『自分の業務リスト』に変わるよ。

LINA
給料は改定率どおりに上がるわけじゃないんですよね。

YUN
直線じゃない。経営判断・労務・地域の人材市場を通る。プラス改定でも物価や人件費が先行すると余力は削られる。見出し率だけで一喜一憂しない、が正解。

LINA
じゃあ改定の季節に、部門でやるべきことって何ですか?

YUN
特別なことじゃないよ。主要算定の棚卸しと、取れている加算/取れていない加算の確認。これだけで『国の話』が『明日の業務リスト』に変わる。

診療報酬の改定を、本体と薬価に分けて読み解く
図4|改定率は「分けて」読む(令和8年度の例)
診療報酬改定(本体側)
+3.09%
技術料など「医療の仕事の値段」。2年度平均の整理例。賃上げ・物価対応などがここに入りやすい。
薬価等改定
▲0.87%
薬や一部材料の公定価格。マイナス改定だと、本体プラスの手応えが薄まることがある。
出典イメージ:財務省『ファイナンス』「令和8年度 社会保障関係予算のポイント」。見出し%だけで一喜一憂せず、個別項目も確認。
病院経営のリアル:大病院と地域病院
同じ「病院」でも台所事情は違います。大病院は装置と人件費が重く、地域病院は余力が小さい。公定価格ではすぐ値上げできないのが共通の難しさです。
図5|大病院と地域病院、それぞれの台所事情
| 観点 | 急性期の大きな病院 | 地域の中小病院 |
|---|
| コスト構造 | 高額装置+24時間人件費が重い | 投資余力が小さく物価高に弱い |
| 価格転嫁 | 公定価格のためすぐ値上げできない | 同左(共通の難しさ) |
| 損税の負担感 | 装置投資が多いほど残りやすい | 規模は小さくても余裕が削られやすい |
| 技師への効き方 | 更新サイクル・夜勤体制に直結 | 人員・多能工化・機器の「来年送り」 |
どちらが「勝ち」ではなく、別種の脆弱性。稟議や処遇の説明も、この構図で読むと噛み合います。

撮影室の装置と人件費——病院の台所事情は現場に直結する

LINA
医業収支率、って言葉が怖いんです。赤字ってことですか?

YUN
ざっくり言うと、本業のお金の出入りのバランスを見る指標。資料によっては『100%を超えると本業赤字』の読み方もある。ただ定義が資料ごとに違うから、数字は比較条件付きでね。福祉医療機構(WAM)の調査では、近年は赤字病院の割合が高めに出ることが多い。忙しいのに余裕がない、の感覚と合いやすい。

LINA
もう一つ、損税……控除対象外消費税? 試験に出そうな顔してます。

YUN
出るよ。社会保険診療は消費税が非課税。だから病院は薬や機器を買うときに消費税を払っても、普通の会社みたいに仕入税額控除で取り戻しにくい。コストとして残りやすい。これが控除対象外消費税(いわゆる損税)。国は診療報酬への上乗せで補填してきたけど、装置投資が多い病院ほど負担感が残りやすい、とも言われる。

LINA
MRI更新の稟議が『来年送り』になる理由、そういう構造もあるんですね。

YUN
感情だけだと『分かってない!』になりがち。でも論点はだいたいこれ。①収支に余裕がない ②改定の配分が薄い ③保守込みの総額が大きい ④損税的な負担 ⑤件数の見通しが弱い。構造が見えると、次の打ち手(加算の棚卸し・共同利用・段階投資)も見える。
💡 数字の心得
- 改定率や自然増は、国費/公費/2年平均/単年度など定義で印象が変わる
- SNSの切り取りより、一次資料の注書きに戻る
- 金額の記載は、財務省等の公表に沿った「程度」表現に留めている
コメディカルが知っておくと得すること
政策を自分の職場に引き寄せるなら、三段で十分です。①夏に温度感(骨太・概算要求)→ ②冬に確定(予算案・改定率)→ ③自施設の機能と算定で当たり方を見る。

LINA
三段……夏・冬・自施設、ですね。具体的には何を聞けばいいですか?

YUN
賞与の説明なら『本体改定の見立てと人件費原資』。機器稟議なら『診療報酬上の評価・保守込み総額・損税的負担』。転職や異動なら、高度急性期と地域密着で評価されやすい業務が違うことを意識する。

LINA
政治の暗記は不要、って最初に言ってました。本当に?

YUN
本当。ゴールは暗唱じゃなく、撮影室の課題を制度と経営の言葉で翻訳できること。それができると、会議でもキャリアでも発言の解像度が一段上がる。

YUN
それで十分。あとは夏と冬に公式資料のタイトルだけ眺める習慣を足せば、半年で『なんとなく不安』が『説明できる不安』に変わるよ。
💡 現場で使える3つの読み方
- 総額より配分:自然増を見たら「どこに落ちるか」まで一段深く
- 本体と薬価を分ける:見出し%を分解して読む
- 指標は条件付き:医業収支や赤字割合は定義と対象を確認
図6|現場に引き寄せる三段読解
政治の暗記ではなく、撮影室の課題を制度の言葉に翻訳するための手順です。

LINA
最後にひとつだけ。今日覚えた言葉、明日の朝礼で使ってもいいですか?

YUN
もちろん。『本体と薬価は分けて見よう』『総額増=給料増じゃない』——この2つだけでも、会議の見え方が変わるよ。
📖 用語ミニ辞典
概算要求各省が次年度予算の見積もりを財務省に出すこと。要求額=決定額ではない。
自然増制度を変えなくても高齢化などで増える社会保障費の伸び。総額増=給料増ではない。
骨太の方針政府の経済・財政の大方針。予算編成の上流。2026年版は7月21日閣議決定。
本体改定率/薬価改定率診療報酬改定を読むときの基本。本体は技術料側、薬価は薬などの価格側。
医業収支率本業の収支バランスを見る指標。定義は資料で異なるので比較条件を確認。
控除対象外消費税(損税)保険診療が非課税のため、仕入れ時の消費税がコストとして残りやすい負担。
✅ この記事のまとめ
- 医療費の財布は、保険料・税金・窓口負担の三層
- 概算要求は「国の夏休みの宿題」。夏は入口、冬が本番
- 自然増は伸びの目安。総額増=給料増ではない
- 病院収入のキーは診療報酬。本体と薬価を分けて読む
- 医業収支・損税を知ると、稟議の通りにくさが説明できる