STANDARD DOSIMETRY 12 · PART 2 · 技術と精度

標準計測法12 第2部・実践編|4つの補正係数と、読み値から cGy/MU まで

電離箱の読み値は、そのままでは線量になりません。温度気圧 kTP・イオン再結合 ks・極性効果 kpol で読み値を基準条件に戻し、ND,w と線質変換係数 kQ を掛けて校正深の水吸収線量を出し、最後に1 MUあたりの線量へ換算します。光子線の出力校正を、式と計算例とシミュレーターで一本の流れとして追います。

ワークステーションで校正証明書の校正定数と測定値を照らし合わせるLINA
補正係数はどれも1に近い。それでも、省いてよいものは一つもない。
REFERENCE AIR 22.0℃・101.33 kPa 温度気圧補正の基準条件。IAEA TRS-398 の20 ℃とは違う。1 ℃で約0.34%、1 hPaで約0.1%動く
CALIBRATION DEPTH 10g/cm² 光子線の校正深。照射野10 cm×10 cm、SSDまたはSCD 100 cm が基準条件
BEAM QUALITY 1.0% 線質変換係数 kQ(計算値)の相対標準不確かさ。光子線の不確かさで最も大きい要因(解説論文 表1)
CONTENTS

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01 · MASTER EQUATION

水吸収線量の式 ─ 全体像

第1部で見たとおり、標準計測法12の校正定数 ND,w は⁶⁰Coガンマ線の基準条件で決まった値です。治療の光子線で使うには、読み値を基準条件に戻し、線質の違いを補正する必要があります。

TALK

初めて出力校正に立ち会うLINAの疑問に、ラッコ先輩が対話形式で答えていきます。

LINA
LINA

ラッコ先輩、ND,w があれば水吸収線量が直接わかると習いました。電離箱の表示に ND,w を掛ければ終わりではないんですか?

ラッコ先輩
ラッコ先輩

電離箱が数えているのは、空洞の空気が電離してできた電荷だよね。空気の量は温度と気圧で変わるから、同じ線量でも暑い日と寒い日で読みが違う。電荷の集め方にも取りこぼしや偏りがある。まず読み値を「校正したときと同じ条件」に戻して、それから ND,w を掛ける。その戻す作業が補正なんだ。

LINA
LINA

読み値そのものではなく、条件をそろえた読み値に直してから使う。前提を合わせる作業なんですね。

高エネルギー光子線の校正深の水吸収線量は、次の2本の式で求めます(標準計測法12の要点解説 式(13)(14))。

Dw,Q = MQ × ND,w × kQ,Q0
MQ = Mraw × kTP × kelec × kpol × ks
記号意味どう決めるか
Dw,Q線質 Q の校正深での水吸収線量 [Gy]求めたい値
Mraw電位計の表示値の平均 [nC など]同じ条件で3回以上読んで平均する
kTP温度気圧補正係数水温と気圧を測って計算(02章)
kelec電位計校正定数電離箱と電位計を分けて校正したときに証明書から。一体校正なら1
kpol極性効果補正係数正負の電圧で測って計算(04章)
ksイオン再結合補正係数2つの電圧で測って計算(03章)
ND,w⁶⁰Coでの水吸収線量校正定数 [Gy/C]SSDLの校正証明書
kQ,Q0線質変換係数電離箱の型番と線質指標で、標準計測法12の表から引く(05章)
STEP 1 読む 校正深に置いた電離箱で Mraw を3回以上読む
STEP 2 基準条件に戻す kTP・kelec・kpol・ks を掛けて MQ にする
STEP 3 線量に変える ND,w を掛ける。ここまでは⁶⁰Coで測ったのと同じ扱い
STEP 4 線質の差を埋める kQ,Q0 を掛け、治療の光子線での Dw,Q にする
この順序に意味がある。ND,w は「基準条件で、補正済みの読み値に対して」与えられた定数です。条件をそろえないまま掛けても意味を持ちません。標準計測法12は補正係数を5つ並べていますが、本記事では電位計校正定数 kelec を一体校正(=1)として、残りの4つ(kTP・ks・kpol・kQ)を順に見ていきます。
02 · AIR DENSITY CORRECTION

温度気圧補正係数 kTP

通気形の電離箱は、空洞の空気が外気とつながっています。温度が上がれば空気は膨らんで空洞の空気が減り、気圧が上がれば押し込まれて増えます。

ラッコ先輩
ラッコ先輩

空洞の空気が減れば電離も減って、読みが小さく出る。kTP はその空気の量のずれを、校正したときの条件に戻す補正だよ。だから別名を空気密度補正とも言うんだ。

LINA
LINA

温度が上がると読みが小さくなるなら、kTP は大きくして戻す。気圧が上がると読みが大きくなるから、kTP は小さくする、ですね。

式は気体の状態方程式から出ます。標準計測法12の基準条件は 22.0 ℃・101.33 kPa です。

kTP = (273.2 + T) / (273.2 + 22.0) × 101.33 / P
T:測定時の水温 [℃] P:測定時の気圧 [kPa]
試験のひっかけ:20 ℃ではない。国際規範のIAEA TRS-398は、基準温度を20 ℃としています。日本の標準計測法12とリニアック標準計測法24は 22 ℃です(米国のTG-51も22 ℃)。海外の教科書や計算シートを流用すると、ここで約0.7%ずれます。温度が分子、気圧が分母という向きは、空気が膨らむと読みが減るという理屈から思い出せます。
温度気圧補正係数 kTP の早見表(水温 × 気圧)

標準計測法12の式 (273.2+T)/295.2 × 101.33/P で計算。白が1.000(22 ℃・101.33 kPa 付近)、琥珀色ほど読み値を大きく戻し、緑ほど小さく戻す。スマホでは2 ℃おきに表示し、値は触れると出ます。

計算例:22.5 ℃・100.50 kPa

水温 22.5 ℃、気圧 100.50 kPa(1005.0 hPa)で測ったとします。

項計算値
温度の項(273.2 + 22.5) / (273.2 + 22.0) = 295.7 / 295.21.00169
気圧の項101.33 / 100.501.00826
kTP1.00169 × 1.008261.0100 約1.0%の補正。2 Gy なら約20 mGy

温度より気圧の効きが大きい例です。標高が数百mある施設では気圧が低いぶん kTP が大きくなり、1.03〜1.05になることもあります。ここを1.000のまま計算すると、数%の誤りになります。

施設の標高と kTP(水温22 ℃の場合)

標高ごとの気圧は国際標準大気の近似式で計算した平均的な値(実際の気圧は天気で数 kPa 動く)。点は標高0・300・500・1000 m。高い所ほど空洞の空気が薄く、補正は大きくなる。

PER 1 ℃ 0.34% 温度を1 ℃読み違えたときの線量のずれ(100/295)
PER 1 hPa 0.099% 気圧を1 hPa読み違えたときの線量のずれ(100/1013.3)
USER SITE 0.1〜0.15% 施設での kTP の相対標準不確かさ(計測法24 付録A.6)

測り方の勘所

  • 温度は水温で測る:空洞の中の温度は直接測れないので、熱平衡にある水温を使います。室温と水温に差があるときは、電離箱を水中に置いてから十分に待ち、読みが落ち着いたことを確かめてから測ります。熱平衡前の読みは系統誤差になります。
  • 気圧は治療室の現地気圧:天気予報の気圧は海面の高さに換算した海面更正気圧です。施設の高さの現地気圧を、校正された気圧計で読みます。
  • 水温は22 ℃±4 ℃:計測法24は、電離箱の応答の温度変化を避けるため水温をこの範囲に保つよう新たに書き込みました(表4.1)。
  • 湿度:TRS-398は、校正定数が相対湿度50%を基準にしていて、相対湿度20〜80%で使うなら湿度の補正は要らないとしています。

温度気圧の記録を間違えたときに、線量がどれだけずれるかを並べます。読み違いの1目盛より、基準の取り違えや海面更正気圧の使用のほうがはるかに大きく効きます。

記録や計算の間違い1つで、線量はどれだけずれるか

1 ℃は100/295、1 hPa は100/1013.3(計測法24 付録A.6の感度係数)。20 ℃基準の取り違えは295.2/293.2。海面の気圧(101.33 kPa)を入れた場合のずれは、標高ごとの気圧を国際標準大気の近似式で求めて計算した。

不確かさの内訳(計測法24 付録A.6)。気象測器検定に合格した電気式温度計は器差の許容範囲が±0.5 ℃で、矩形分布とみなすと標準不確かさは0.29 ℃、温度補正の相対標準不確かさは0.1%です(ガラス製温度計なら0.06%)。気圧計は許容範囲±0.7 hPaで標準不確かさ0.41 hPa、気圧補正の相対標準不確かさは0.041%。合わせて、施設での kTP の相対標準不確かさは0.1〜0.15%と見積もられています。なお、外部モニタ電離箱を水槽に置き、その指示値との比をとる測り方(相互校正など)では kTP は相殺されます。
03 · ION RECOMBINATION

イオン再結合補正係数 ks

放射線がつくった正負のイオンの一部は、電極に届く前に再び結びついて消えます。消えた分は電荷として数えられません。

LINA
LINA

イオンが途中で消えるなら、読み値は本来より小さく出るんですよね。

ラッコ先輩
ラッコ先輩

そう。だから ks は必ず1より大きくなって、消えた分を戻す向きに働く。リニアックはパルス状のビームで、パルスの瞬間にイオンが密集するから、⁶⁰Coのような連続ビームとは別の式を使うんだ。

2点電圧法で求める

いつもの電圧 V1 と、それより低い電圧 V2 で同じ照射を測り、読み値の比 M1/M2 から求めます。これを2点電圧法と呼びます。パルス放射線では次の二次式を使います(Weinhous と Meli の式)。

ks = a0 + a1(M1/M2) + a2(M1/M2)²
M1:いつもの電圧 V1 での読み値 M2:低い電圧 V2 での読み値
電圧比 V1/V2a0a1a2感度係数
2.02.337−3.6362.2990.962
2.51.474−1.5871.1140.641
3.01.198−0.8750.6770.479

係数はパルス放射線用(TRS-398 表9)、感度係数は M1/M2 の読みの誤差が ks にどれだけ響くかの目安です(計測法24 表A.1)。たとえば V1/V2 = 2.0 で M1/M2 = 1.0048 なら、ks = 2.337 − 3.636 × 1.0048 + 2.299 × 1.0048² ≒ 1.0047 です。リニアックの通常の条件では、ks は1.001〜1.005程度に収まることが多い値です。

2点電圧法の ks:読み値の比 M1/M2 と電圧比

TRS-398 表9のパルス放射線の係数で計算。点は本文の例(V₁/V₂ = 2.0、M₁/M₂ = 1.0048)。V₁/V₂ = 2.5 の式は M₁/M₂ = 1(再結合なし)でも k_s が1.001になる。計測法24 付録A.7が指摘する近似式の誤差がこれ。

電圧比はどう選ぶか(計測法24 付録A.7)。感度係数は電圧比が大きいほど小さく、読みの誤差が ks に響きにくくなります。ただし常用電圧を超える高電圧は電離箱や電位計を壊すおそれがあり、低すぎる電圧では電荷を集めきれず式を正しく評価できません。そこで V1/V2 は電離箱の取扱説明書やカタログの常用電圧の範囲で、とれる最大の値にするのが望ましいとされます。また、標準計測法12が採るWeinhousとMeliの式は一般再結合と初期再結合を分けて補正できず、電圧比によっては M1/M2 = 1 でも ks が1.001になることが知られています。この分まで見込むなら、0.1%を保守的に合成するとよい、と同付録は書いています。
電圧比ごとの感度係数(M1/M2 の誤差が ks に響く割合)

計測法24 表A.1。電圧比を2.0から3.0にすると、読み値の比の誤差が k_s に響く割合は半分になる。常用電圧の範囲でとれる最大の電圧比を選ぶ理由。

04 · POLARITY EFFECT

極性効果補正係数 kpol

印加電圧の極性を入れ替えると、読み値がわずかに変わることがあります。電離箱の構造やケーブルに生じる電流が原因で、空洞の電離とは別の信号です。

kpol = (|Mraw+| + |Mraw−|) / (2 |Mraw|)
分母の Mraw は、ふだん使う極性での読み値です。

計測法24の付録A.8は、この式を整理すると、どちらの極性を基準にしても kpol は正負の電圧での指示値の比の関数になる、と示しています。光子線のファーマ形では1.000にごく近い値になることが多く、例えば |M+| = 31.36 nC、|M−| = 31.31 nC(M+ がふだんの極性)なら kpol = 62.67 / 62.72 ≒ 0.9992 です。

LINA
LINA

ほとんど1.000なら、毎回測らなくてもいい気がしてしまいます。

ラッコ先輩
ラッコ先輩

「測って1.000だった」と「測らずに1.000だと思った」は、まったく違う情報だよ。電離箱やケーブルが傷んだ日に限って、ここが動いたりする。もう一つ大事なのは、極性を反転した直後に読まないこと。反転直後は電離箱の出力が落ち着いていないからね。

平行平板形は待ち時間に注意。計測法24の付録A.8は、極性効果の測定は電離箱の出力が十分に安定してから行うべきで、一部の平行平板形電離箱は電圧をかけてから安定するまでに極端に時間がかかると報告されている、と注意しています。反転直後の値を読むと、極性効果ではなく過渡応答を測ることになります。平行平板形を使う電子線では特に問題になりやすく、第3部・電子線編でも扱います。

どの補正も、読み値は3回以上繰り返して平均を使います。ばらつきが大きいときは、セットアップ・ケーブル・電離箱の状態を見直してから測り直します。読みのばらつきは、不確かさの中で「モニタ設定値に対する表示値」の項になります。

05 · BEAM QUALITY CONVERSION

線質変換係数 kQ,Q0

ND,w は⁶⁰Coで決まった値です。患者さんに使うのは 6 MV や 10 MV の光子線で、電離箱の応答は線質によって少しずつ違います。

LINA
LINA

⁶⁰Coで校正した値を、6 MV や 10 MV にそのまま使ってはいけないんですね。差はどうやって埋めるんですか?

ラッコ先輩
ラッコ先輩

その差を埋めるのが kQ,Q0 だよ。値は、空気に対する水の阻止能比や電離箱の擾乱補正係数から計算で求めてあって、電離箱の型番と線質指標の組み合わせで標準計測法12の表から引く。施設で測って決める係数ではない、というのがポイントだね。

光子線の線質指標は組織ファントム線量比 TPR20,10です。線源と検出器の距離を一定にして、深さ20 g/cm²と10 g/cm²の線量比をとります。決め方は標準計測法12 第3章「3.3 線質の決定」にあり、計測法24もそれを参照しています。kQ は計測法12の表3.3にあります。

TPR20,10 の測り方:線源〜電離箱は100 cmのまま、上の水の厚さだけ変える

縦横の縮尺はそろえていない模式図。TPR20,10 = D(20) ÷ D(10)。線源〜電離箱の距離(SCD)を100 cmに固定し、電離箱の面で照射野10 cm × 10 cm にして、深さ20 g/cm²と10 g/cm²で測った線量の比(IAEA TRS-398 の定義。標準計測法12の3.3節も同じ量を使う)。距離が同じなので逆二乗の影響を受けず、線量最大深の手前の混入電子の影響も受けない。

線質線質指標kQ の大きさ(ファーマ形の目安)注意点
光子線(6〜10 MV)TPR20,100.99前後 計測法24の例では6 MVで0.993⁶⁰Coに近く、補正量は小さい
電子線R50(線量半価深)0.9台阻止能比の違いが大きく、補正量が大きい

電離箱の応答が線質でどれだけ変わるかは、リニアックで直接校正した値を見ると実感できます。計測法24が例として示した1本の電離箱の校正定数を、⁶⁰Coの値で割ってみます。

線質で変わる電離箱の応答:リニアック校正の校正定数 ÷ ⁶⁰Coの校正定数

計測法24 表4.2の例示値(⁶⁰Co 48.38、6 MV 47.82、10 MV 47.39、15 MV 46.98 mGy/nC)から計算。原典自身が「参考値であり、実際の計測には用いてはならない」とする値で、1本の電離箱の例。この比が、その電離箱の kQ にあたる。標準計測法12では同じ量を計算で与えている。例示値どうしなので、標準計測法12の表の値とは直接比べないこと。

kQ は小さく見えて、いちばん不確か。解説論文の表1では、⁶⁰Co校正のファーマ形で光子線を測るときの不確かさの最大要因が kQ(計算値)で、相対標準不確かさ1.0%でした。合成1.5%の大半を占めます。後継の計測法24がリニアックの光子線で直接校正する方式にしたのは、この kQ を校正範囲の内側では不要にするためです(リニアック標準計測法24の解説)。標準計測法12の kQ は前版の標準測定法01より、エネルギーが高いほど小さめの値になり、空洞半径3 mmの円筒形電離箱では、10 MV(TPR20,10 0.74)で約−0.4%の差になります。
試験と臨床で怖いミス。kQ は型番ごとに違うので、電離箱の型番の行を取り違えるのがよくある誤りです。もっと深刻なのは、電子線で kQ を掛け忘れることです。光子線の感覚で「どうせ0.99」と省くと、電子線では数%から1割近い誤りになります。電子線は第3部で扱います。
06 · REFERENCE CONDITIONS

基準条件と、校正深10 cmの理由

光子線の校正深は 10 g/cm² です。計測法24は「基準条件は標準計測法12から大きな変更はない」としていて、表4.1に一覧があります。

項目基準値・基準条件
ファントム水。深さは水等価厚(g/cm²)で表す
校正深 dc10 g/cm²
照射野10 cm × 10 cm
SSD または SCD100 cm 臨床で使っているセットアップに合わせる
電離箱円筒形。空洞の幾何学的中心を校正深に置く

「SSD または SCD 100 cm」は、どこまでの距離を100 cmにそろえるかで2通りあります。SSD配置は線源から水面まで、SAD(SCD)配置は線源から電離箱、つまりアイソセンタまでを100 cmにします。照射野10 cm × 10 cm を決める面も違い、SSD配置では水面、SAD配置では校正深です(計測法24 表4.1の注)。どちらで測るかは、臨床で使っているセットアップに合わせます。

校正深10 g/cm²の基準条件:SSD配置とSAD(SCD)配置

縦横の縮尺はそろえていない模式図。数値は基準条件の値(計測法24 表4.1、計測法12から大きな変更なし)。SSD配置では電離箱は線源から110 cm、SAD配置では水面が線源から90 cmになる。茶色の線が照射野10 cm × 10 cm を決める面。ビームは線源から広がるので、同じ10 cm × 10 cm でも、決める面がどこかで水中の照射野の大きさが変わる。

水ファントムの大きさにも決まりがあります。計測法24の3.2節は、水槽の横幅を最大照射野より各辺5 cm以上、深さを光子線では測定深より10 g/cm²以上深くとるよう求めています。水平ビームで測るときは入射窓をプラスチック(厚さ0.3〜0.5 cm を推奨)とし、その厚さを水等価厚(密度×厚さ。PMMAは1.19 g/cm³)に換算して深さに足します。垂直ビームでは、水が蒸発して水面が下がり、SSDが変わることにも注意します。

01 混入電子を避ける 治療ヘッドや空気で生じた混入電子は浅い所で吸収される。10 cm深なら光子線による線量を測れる
02 位置のずれに強い 線量最大深の手前はビルドアップで勾配が急。10 cm深は勾配が緩やかで、深さを少し誤っても線量が動きにくい
03 kQ の前提と一致 kQ の表は基準条件の校正深で計算されている。別の深さで測れば表の値の前提から外れる

10 cmで測り、基準点の線量に直す

モニタ線量計を何cGy/MUに合わせるかは、施設が決めた基準点で考えます。基準点を線量最大深 dmax に置き、そこで 1 MU = 1 cGy に合わせる施設が多くあります。10 cm深の測定値を基準点の線量へ直すのに、SAD配置ならTMR、SSD配置ならPDDを使います。この手続きは標準計測法12 第3章「3.4.3 線量最大深と基準深の水吸収線量」にあります。TMRは分母(dmax)と分子(10 cm)を同じ線源距離で測った比なので逆二乗の補正を含みません。PDDはSSDを一定にして深さを変えるので、深さとともに線源からの距離も変わり、その逆二乗の効果を含みます。上の模式図のどちらの配置で測ったかで、使う関数が決まります。

SAD配置の例:Dw(dmax) = Dw(10) / TMR(10)
これを照射したMUで割ると、基準点での1 MUあたりの線量(DMU, cGy/MU)が出ます。1.000 cGy/MU から外れていれば、モニタ線量計の感度を調整します。
07 · MEASUREMENT WORKFLOW

実測からDMUまでと、シミュレーター

ここまでの内容を、出力校正の当日に踏む手順として並べ直します。

STEP 01 準備 電離箱と電位計をつなぎ、水ファントムの校正深に置く。電位計の単位・電圧を証明書の条件に合わせ、熱平衡を待つ
STEP 02 水温と気圧を記録 水温と現地気圧を読み、kTP を計算する
STEP 03 いつもの電圧で3回 M1(=Mraw)を得る。ばらつきが大きければセットアップを見直す
STEP 04 低い電圧で測る M2 を得て、M1/M2 から ks を計算する
STEP 05 逆の極性で測る 出力が安定するまで待ってから M− を読み、kpol を計算する
STEP 06 MQ を確定 Mraw × kTP × kelec × kpol × ks
STEP 07 Dw(10) を出す MQ × ND,w × kQ で校正深の水吸収線量
STEP 08 DMUを決める TMR(またはPDD)で基準点へ直し、MUで割って cGy/MU を出す

計算例:100 MUで校正深を測った場合

下のシミュレーターの初期値と同じ数字で、STEP 06〜08を通しで計算します。校正定数と kQ は計測法24が例として示した値(原典が「参考値であり、実際の計測には用いてはならない」とする値)で、読み値は計算を確かめるための仮の値です。

手順計算結果
kTP(273.2 + 23.0) / 295.2 × 101.33 / 100.801.0087
MQ16.35 nC × 1.0087 × kpol 1.0010 × ks 1.0020(kelec = 1)16.541 nC
Dw(10)16.541 nC × 48.38 mGy/nC × kQ 0.9930.7947 Gy
Dw(dmax)0.7947 Gy ÷ TMR 0.7901.0059 Gy
DMU100.59 cGy ÷ 100 MU1.006 cGy/MU 基準の1.000より0.6%高い
計算例で、各係数が結果を何%動かしたか

上の表の計算例。k_TP(23.0 ℃・100.80 kPa)が+0.87%で最も大きく、k_Q(0.993)が−0.70%で逆向きに効く。k_elec = 1。最後の行は、こうして出た DMU 1.006 cGy/MU と基準の1.000の差。

ラッコ先輩
ラッコ先輩

数字を入れて動かしてみよう。温度を1 ℃上げるだけで、DMUが約0.3%動くのが見えるはずだよ。補正を省けない理由が、手で分かるようになる。

LINA
LINA

4つの補正がばらばらの知識じゃなくて、読み値を基準条件に戻すための一連の作業だとつながりました。

SIMULATOR 水吸収線量 計算シミュレーター(標準計測法12) 読み値・水温・気圧・補正係数から 1 MU あたりの線量まで。上のタブで計測法24にも切り替えられます

シミュレーターの「生データから kpol・ks を計算する」を開くと、両極性の読み値や2つの電圧での読み値から係数を出せます。「夏の測定室」(28 ℃・99.50 kPa)を押すと kTP は約1.039。温度と気圧の記録を取り違えると、出力が4%近くずれて見えるということです。測定後に値がおかしいと感じたら、まず kTP の入力から疑うのが近道です。日々の出力の点検はTG-142とJASTRO QAガイドライン、測定の準備から患者QAまでの全体は線量測定とQA/QC 実践ガイドにまとめています。

08 · QUICK CHECK

一問一答

品質管理士試験や認定試験で問われやすい点を確認します。

Q1 標準計測法12の温度気圧補正の基準条件は?(20 ℃・101.325 kPa/22.0 ℃・101.33 kPa/0 ℃・101.33 kPa)
よくある誤解:20 ℃(IAEA TRS-398の基準)

正解は22.0 ℃・101.33 kPa。温度が高いほど、気圧が低いほど kTP は大きくなります。

Q2 2点電圧法で電圧比 V1/V2 を大きくとると、ks の不確かさはどうなるか。上限は何で決まるか。

感度係数が小さくなり、不確かさは小さくなります(V1/V2 = 2.0 で0.962、3.0 で0.479)。ただし常用電圧を超えると電離箱や電位計を壊すおそれがあるので、取扱説明書の常用電圧の範囲でとれる最大の値にします。

Q3 6 MV の光子線と電子線で、kQ が1から大きく離れるのはどちらか。
よくある誤解:エネルギーが高い光子線のほうが補正が大きい

正解は電子線。6 MV 光子線の kQ は0.99前後で⁶⁰Coに近く、電子線は阻止能比の違いから0.9台になります。

Q4 ⁶⁰Co校正のファーマ形で光子線を測るとき、不確かさの最大の要因は?(kTP/読み値のばらつき/kQ/ND,w)
よくある誤解:校正証明書の ND,w

正解はkQ(計算値)で相対標準不確かさ1.0%。標準機関側(ND,w を含むステップ1)の合成は0.52%でした(解説論文 表1)。

Q5 光子線の校正深と、電離箱を置く位置は?

校正深は10 g/cm²で、円筒形電離箱の空洞の幾何学的中心をそこに置きます。照射野は10 cm × 10 cm、SSDまたはSCDは100 cmが基準条件です。

Q6 電離箱と電位計を別々に校正に出した。MQ の計算で忘れやすい係数は?
よくある誤解:ND,w を掛ければ電位計の分も入っている

正解は電位計校正定数 kelec。分離校正では電離箱の ND,w とは別に、電位計の kelec が与えられます。一体で校正したときは kelec = 1 として扱います。

SUMMARY

第2部のまとめ

  • 式:Dw,Q = MQ × ND,w × kQ,Q0。MQ は読み値に kTP・kelec・kpol・ks を掛けた値。
  • kTP:基準は22.0 ℃・101.33 kPa。温度が分子、気圧が分母。1 ℃で約0.34%、1 hPaで約0.1%。
  • ks:2点電圧法。電圧比は常用電圧の範囲でとれる最大の値に。
  • kpol:1.000に近くても必ず測る。反転したら安定するまで待つ。
  • kQ:型番と TPR20,10 で表から引く。光子線の不確かさの最大要因(1.0%)。
  • DMU:10 cm深で測り、TMRやPDDで施設の基準点へ直してMUで割る。
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REFERENCES

参考文献

  1. [1]日本医学物理学会:外部放射線治療における水吸収線量の標準計測法(標準計測法12),通商産業研究社,2012年(第3章 高エネルギー光子線)
  2. [2]齋藤秀敏:〈要点解説:標準計測法12〉外部放射線治療のための水吸収線量標準計測法の概略.医学物理 33(4): 171–178, 2013(式(13)(14)、表1 光子線の不確かさ、図5 kQ の差)
  3. [3]日本医学物理学会:リニアック標準計測法24,2024年3月(3.1節、表4.1 基準条件、付録A.6 温度気圧補正/A.7 イオン再結合補正/A.8 極性効果補正)
  4. [4]IAEA:Absorbed Dose Determination in External Beam Radiotherapy(Technical Reports Series No. 398),2000(4.4.3.1 湿度、表9 2点電圧法の係数)

確認日:2026年10月9日。計算例の校正定数・kQ は計測法24が示した例示値で、読み値は仮の値です。臨床の測定は原典と自施設の校正証明書に従ってください。

RadiTech FIRE · 治療計画も、人生計画も 標準計測法12 第2部・実践編
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