【標準計測法12】電子線計測とクロスキャリブレーション|R₅₀・平行平板形電離箱・不確かさ評価を完全攻略【第3部・電子線編】
STANDARD DOSIMETRY 12 · PART 3 · 技術と精度
標準計測法12 第3部・電子線編|R50・平行平板形・相互校正と不確かさ評価

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電子線は何が光子線と違うのか
第1部で水吸収線量校正定数 ND,w の意味を、第2部で光子線の補正係数とDMUの出し方を見てきました。最終章は電子線と、測定の確かさの表し方です。
電子線の出力校正を任されたLINAの疑問に、ラッコ先輩が対話形式で答えていきます。
線質指標 R50 と校正深 dc
電子線の線質は、水中での到達深さで表します。深部量百分率が50%になる深さ、線量半価深 R50 です。
電離箱が直接測るのは電離量なので、まず電離量の深部曲線で半価の深さ I50 を読み、次の式で R50 に換算します。測定は SSD 一定、照射野は10 cm × 10 cm(高エネルギーでは20 cm × 20 cm)で行います。
I50 > 10 g/cm² のとき:R50 = 1.059 I50 − 0.37
校正深:dc = 0.6 R50 − 0.1(単位はすべて g/cm²)
I50 と R50 の差は小さく、9 MeV 程度では0.04 g/cm²ほどです。ただしエネルギーが上がるほど開き、10 g/cm²を超えると式が切り替わります。
R50 − I50 を、I50 ≤ 10 g/cm² では 1.029 I50 − 0.06、それより深いと 1.059 I50 − 0.37 で計算した。点は原典の例題1(I50 3.55)と例題2(I50 6.36)。
原典の例題で追う(9 MeV と 15 MeV)
標準計測法12の第4章には、実際の装置での例題が載っています。数字をそのまま並べます。
| 項目 | 例題1:9 MeV | 例題2:15 MeV |
|---|---|---|
| 電離箱 | 平行平板形(IBA PPC40) | ファーマ形(Exradin A12) |
| I50 | 3.55 g/cm² | 6.36 g/cm² |
| R50 | 3.59 g/cm² 1.029 × 3.55 − 0.06 | 6.48 g/cm² 1.029 × 6.36 − 0.06 |
| dc | 2.05 g/cm² 0.6 × 3.59 − 0.1 | 3.79 g/cm² 0.6 × 6.48 − 0.1 |
| dmax と dc の PDD | dmax 2.10 cm、PDDc 100.0% | dmax 3.38 cm、PDDc 99.4% |
| ⁶⁰Coでの ND,w | 8.89×10⁻² Gy/nC | 4.749×10⁻² Gy/nC |
どちらも医用原子力技術研究振興財団で⁶⁰Coの ND,w を受けた電離箱です。平行平板形の空洞はファーマ形より小さいので、同じ線量で集まる電荷が少なく、ND,w(Gy/nC)は大きくなります。原典は例題1について「およそ R50 < 4 g/cm² では dmax と dc は一致する」と添えています。
d_c = 0.6R50 − 0.1(g/cm²)。網かけは平行平板形しか使えない R50 < 4 g/cm² の範囲。点は原典の例題1(9 MeV)と例題2(15 MeV)。

電子線の深部量百分率曲線は、ピークの先で急に落ちるよね。dc の式は、水と空気の阻止能比を R50 だけで精度よく決められる深さとして選ばれたものなんだ。低いエネルギーではほぼピークの位置、高いエネルギーではピークより少し深い位置になる。例題2の PDDc が99.4%なのは、そのためだよ。
平行平板形と円筒形の使い分け
標準計測法12は、電子線の校正深の計測に平行平板形を推奨し、高エネルギー電子線(R50 ≥ 4 g/cm²、平均エネルギー Ē0 ≥ 10 MeV)に限って例外的にファーマ形を認めています(第4章 例題2)。
| 項目 | 円筒形(ファーマ形) | 平行平板形 |
|---|---|---|
| R50 < 4 g/cm² | 使わない | 平行平板形だけ(固体ファントムを使えるのもこの範囲で、平行平板形との組み合わせのみ) |
| R50 ≥ 4 g/cm² | 例外的に認められる | 推奨 |
| 基準点(計測法12) | 幾何学的中心から線源側へ 0.5 rcyl(半径変位法) | 電離空洞内の前面 |
| 空洞体積の例 | 約0.6 cm³ | Roos 0.35 cm³ / NACP-02 0.16 cm³ 電極間隔はどちらも2 mm(メーカー資料) |
| ⁶⁰Coでの校正 | 受けられる | 受けられる(解説論文の表3には5型式・計264本の実績)。ただし kQ の不確かさが大きい |
校正深 dc に「電離箱のどこを」合わせるかは、電離箱の形と計測法で違います。電子線の基準条件は SSD 100 cm、照射野は水面で10 cm × 10 cm です。その水中の dc 付近を、原典の例題の数字で拡大して描きます。
深さは原典の例題1(9 MeV、dc 2.05 g/cm²)と例題2(15 MeV、dc 3.79 g/cm²)。平行平板形は空洞の前面の中心を dc に置く。寸法は Roos 形の値(窓 PMMA 118 mg/cm²・電極間隔2 mm・集電極の直径16 mm・保護電極の幅4 mm、IAEA TRS-398 表4)で、保護電極の幅は空洞の厚さの1.5倍以上という計測法24の条件を満たす。ファーマ形は計測法12では幾何学的中心から線源側へ0.5 rcylの点(測定の実効点)を dc に置くので、中心は0.5 rcyl深くなる。rcyl は例題2の Exradin A12 の空洞半径3.1 mm(TRS-398 表3)。計測法24では電子線でも幾何学的中心を dc に置く。オレンジの点が基準点。
標準計測法12の第4章(例題2・例題3)と、相互校正の線質を「R50 7 g/cm²以上」とする計測法24 6.2節・TRS-398による。右端の10.5 g/cm²は、計測法12が k_Q の範囲とした上限(付録3)。
相互校正 ─ ファーマ形から平行平板形へ
施設の水ファントムの中で、校正を受けたリファレンス線量計と別の線量計(フィールド線量計)を同じ点に交互に置いて測り、校正定数を移す方法を相互校正と呼びます。
ある線質 Q で両方の線量計を測れば、校正点の水吸収線量は同じはずです。この関係から、フィールド線量計の⁶⁰Coでの校正定数が求まります(解説論文 式(10))。
ref:⁶⁰Coで校正を受けたリファレンス線量計(ファーマ形など) field:校正定数を移したい線量計 M:補正後の表示値
配置を描くと次のようになります。外部モニタ電離箱は動かさずに置いたまま、中央の位置にリファレンス線量計とフィールド線量計を交互に入れ替えて測ります。
模式図(縮尺は目安)。深さ4.4 g/cm² は媒介線質 R50 7.5 g/cm²(計測法12 付録3)の dc = 0.6 × 7.5 − 0.1 で計算した例。医学物理44(4)の解説は、外部モニタにはファーマ形を使い、校正深付近に、校正する電離箱から2.5 cm以上離して置き、一連の測定中は絶対に動かさないとしている。モニタとの比をとるので、装置の出力の揺らぎと kTP が打ち消し合う。
頻度の決まりは一律ではなく、施設の品質管理計画で決めます。リファレンス線量計の校正を受け直したとき、フィールド線量計を新しく入れたときや修理・部品交換をしたときは、取り直すのが基本です。リニアックの電子線で平行平板形を校正するサービスもあり(東洋メディック。リニアックによるJCSS校正は2025年4月から)、その校正を受けた平行平板形は施設での相互校正が要りません(医学物理44(4)。計測法24の記事)。
電子線の水吸収線量
式の骨格は光子線とまったく同じです。Dw,Q = MQ × ND,w × kQ,Q0。MQ は第2部と同じく、読み値に kTP(22.0 ℃・101.33 kPa 基準)・kelec・kpol・ks を掛けた値です。
違うのは「dc の深さで測る」「電離箱の種類と基準点」「kQ の表が電子線用で、線質指標が R50」の3点だけです。kQ は線質変換係数と呼ばれ、電離箱の型式と R50 の組み合わせで表から引きます。電子線では kQ が1から大きく離れるので、掛け忘れは大きな誤りになります。
計算の流れ(例題1の電離箱で)
原典の例題1の電離箱(ND,w = 8.89×10⁻² Gy/nC)を使い、読み値と kQ に仮の値を入れて計算の形だけ追います。kQ の実際の値は、原典の表で型式と R50 から引いてください。
| 手順 | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
| 校正深 | 0.6 × 3.59 − 0.1 | 2.05 g/cm² 原典の値 |
| MQ | 読み値に kTP・kelec・kpol・ks を掛ける | 11.26 nC 仮の値 |
| Dw,Q | 11.26 nC × 8.89×10⁻² Gy/nC × kQ 0.93(仮) | 0.931 Gy |
| 基準点へ | 電子線は一般に線量最大深を基準にする。PDDc で割り戻す | 0.931 Gy PDDc 100.0% |
不確かさ評価 ─ Type A と Type B
標準計測法12も計測法24も、不確かさをGUM(測定における不確かさの表現のガイド)の考え方で見積もっています。
| 分類 | Type A | Type B |
|---|---|---|
| 評価の方法 | 統計的な方法(くり返し測定) | 統計以外の方法(証明書・仕様・文献など) |
| 例 | 読み値をくり返したときの標準偏差 | 校正証明書の値、温度計の器差、kQ の計算の不確かさ |
| 求め方 | 平均値の標準不確かさは s / √n | 「±a の範囲」なら矩形分布として a / √3 など |
| 測定回数との関係 | 回数を増やすと小さくなる | 回数では変わらない |
どちらも標準偏差 σ = 1 にそろえた。矩形分布は ±a の中で値が一様に出る分布で、a = √3 σ のとき標準偏差が σ になる。だから「±a」とだけ書かれた仕様は a / √3 で標準不確かさに直す。
不確かさの合成と、シミュレーター
要因ごとの標準不確かさを二乗和の平方根で合成し(合成標準不確かさ uc)、包含係数 k を掛けて拡張不確かさ U を出します。
k = 2 で信頼の水準約95%(k = 1 で約68%、k = 3 で約99.7%)。足し算ではなく二乗和で合成するのは、独立な要因が同じ向きに最大に振れることはまずないからです。
正規分布を仮定したときの割合。k = 1 で約68.3%、k = 2 で約95.4%、k = 3 で約99.7%。線量計測では k = 2(約95%)で拡張不確かさを書くのが標準。
原典の表で見る:⁶⁰Co校正のファーマ形・光子線
電子線の内訳を見る前に、要因の並び方がはっきり分かる光子線の表を見ます。標準計測法12の執筆委員長による解説論文の表1です。
| 要因 | 相対標準不確かさ | 誰が決めるか |
|---|---|---|
| ステップ1:線量標準機関の合成 | 0.52% 特定二次標準器の校正0.40・基準場0.18・施設の線量計の測定0.27 | 標準機関 |
| ユーザー線量計の長期安定性 | 0.3% | 施設 |
| 基準条件の設定 | 0.4% | 施設 |
| モニタ設定値に対する表示値 Mraw | 0.6% | 施設 |
| 補正係数 ki | 0.4% | 施設 |
| 線質変換係数 kQ(計算値) | 1.0% 最大の要因 | 計測法(計算) |
| Dw,Q の合成標準不確かさ | 1.5% | |
| 拡張不確かさ(k = 2) | 2.9% |
表の値は丸めてあるので、表から手で計算すると √(0.52² + 0.3² + 0.4² + 0.6² + 0.4² + 1.0²) = √2.04 ≒ 1.43% になり、拡張不確かさは2.86%です。表の合成1.5%・拡張2.9%と小数点以下で少し食い違うのは丸めのためです。
解説論文の表1の値を二乗して割合にした。k_Q 1本で約半分を占める。施設が動かせるのは表示値・基準条件・補正係数・長期安定性の4項目。
電子線では何が変わるか
相対標準不確かさ(%)。k_Q は⁶⁰Coに対する値、k_Q,Qint は媒介線質 Qint(R50 = 7.5 g/cm²)に対する値。平行平板形には中心電極が無いので P_cel の行は無い。平行平板形の k_Q は P_wall(0.8%)が大きく、合成1.2%と最も大きい。相互校正して k_Q,Qint を使うと0.6%まで下がる。
電子線でも、不確かさを支配するのは kQ です。平行平板形の⁶⁰Co校正から直接 kQ を使うと1.2%で、光子線より大きくなります。医学物理44巻4号の比較では、標準計測法12の電子線の拡張不確かさ(k = 2)は平行平板形で3.4%、ファーマ形で2.9%でした。リニアックの電子線で校正する計測法24では、内挿で2.0%、外挿で2.3%です。
「kQ の行を 0 にしたら」を押すと、合成は1.43%から約1.0%へ下がります。kQ 1本が全体の半分ほどを占めていることが分かります。「手技を詰めたら」は、施設が動かせる4項目をそれぞれ0.2%にした場合で、それでも kQ が残るかぎり拡張不確かさは2%台にとどまります。計測法24が治療の線質で直接校正する方式に移った理由が、この数字から見えてきます。
臨床のQAとのつながり
年に1度の出力校正で決めた値は、毎日・毎月の点検の物差しになります。
左3本は AAPM TG-142 の X線出力の許容値(毎日3%・毎月2%・年次の校正±1%)、右3本は水吸収線量計測の拡張不確かさ(解説論文・医学物理44(4)・計測法24 表4.3)。性格の違う数字なので大小を直接比べるものではなく、年次の校正の不確かさと日々の許容値が同じ桁にあることを見るための図。
毎日・毎月の点検は、校正の値そのものではなく「校正した日からの変化」を見る相対的な比較です。同じ装置・同じ配置で測るので、校正定数や kQ に由来する不確かさは比べる両方に共通に入り、差をとると消えます。拡張不確かさ2.9%の測定で決めた値を、3%の許容値で毎日見ても矛盾しないのはこのためです。点検表の組み方はTG-142とJASTRO QAガイドラインの違いに、出力校正から患者QAまでの全体は線量測定とQA/QC 実践ガイドとRT-QA MAPにまとめています。
腕試しとよくある質問
品質管理士・認定試験で問われやすい点です。選択肢を考えてから開いてください。
Q1 電子線の R50 が3.8 g/cm²だった。校正深の計測に使える電離箱は?(平行平板形だけ/ファーマ形だけ/どちらでもよい)
正解は平行平板形だけ。R50 < 4 g/cm² では平行平板形しか使えません。R50 = 4.0 以上ならファーマ形も例外的に使えます。
Q2 I50 = 3.55 g/cm²。R50 と校正深 dc は?
R50 = 1.029 × 3.55 − 0.06 = 3.59 g/cm²、dc = 0.6 × 3.59 − 0.1 = 2.05 g/cm²(原典の例題1)。
Q3 くり返し測定の標準偏差から評価した不確かさは、Type A と Type B のどちらか。
正解はType A。分類の基準は評価の方法で、統計的に評価したものが Type A です。
Q4 合成標準不確かさが1.5%のとき、k = 2 の拡張不確かさは?(0.75%/1.5%/3.0%/4.5%)
正解は3.0%。U = k × uc = 2 × 1.5%。1.5%は k = 1、4.5%は k = 3 の値です。
Q5 電子線の相互校正は、低エネルギーと高エネルギーのどちらの電子線で行うか。理由は?
施設で最も高いエネルギーの電子線(R50 7 g/cm²以上が強く推奨)。リファレンスのファーマ形が空洞の影響を受けにくく、正確に測れるのが高エネルギー側だからです。
Q6 電子線でも kTP や ks は光子線と同じように使うのか。
考え方と式は同じで、値は測定のたびに求め直します。平行平板形は電圧をかけてから安定するまで時間がかかる型式があり、kpol は特に丁寧に測ります(計測法24 付録A.8)。求め方は第2部・実践編で扱いました。
Q7 固体ファントムで電子線の線量を測ってよいのはどんな場合か。
標準計測法12では R50 < 4 g/cm² の低エネルギー電子線に限り、しかも平行平板形との組み合わせだけが認められています。固体ファントムと円筒形の組み合わせは推奨されません。深さは面積質量(g/cm²)で表し、水との違いはスケーリング係数で補正します。
第3部のまとめ
- 線質指標は R50:I50 から R50 = 1.029 I50 − 0.06(I50 ≤ 10 g/cm²)で換算する。
- 校正深 dc = 0.6 R50 − 0.1:エネルギーごとに測る深さが変わる。
- 電離箱:平行平板形が推奨。R50 < 4 g/cm² は平行平板形だけ、4以上ならファーマ形も例外的に可。
- 相互校正:施設で最も高いエネルギーの電子線で、ファーマ形の校正定数を平行平板形へ移す。kQ の不確かさが1.2%から0.6%へ下がる。
- 不確かさ:Type A/B は評価の方法で分ける。uc = √(Σui²)、U = k × uc(k = 2 で約95%)。
- 支配的な要因は kQ:光子線でも電子線でも。だから計測法24は治療の線質で直接校正する方式に移った。
シリーズと関連記事
参考文献
- [1]日本医学物理学会:外部放射線治療における水吸収線量の標準計測法(標準計測法12),通商産業研究社,2012年(学会出版物ページ)
- [2]日本医学物理学会:標準計測法12 抜粋(第4章 高エネルギー電子線の水吸収線量計測ワークシート・例題、第7章 相互校正、付録3 線質変換係数)(例題1・2の数値、表A3.6)
- [3]齋藤秀敏:〈要点解説:標準計測法12〉外部放射線治療のための水吸収線量標準計測法の概略.医学物理 33(4): 171–178, 2013(相互校正の式、表1 光子線の不確かさ、表3)
- [4]清水森人,小口宏,藤田幸男,歳藤利行:リニアック標準計測法24の概要と実際.医学物理 44(4): 61–69, 2024(計測法12と計測法24の不確かさの比較)
- [5]日本医学物理学会:リニアック標準計測法24,2024年3月(5.1節、6.2節、付録A.6・A.8)
- [6]IAEA:Absorbed Dose Determination in External Beam Radiotherapy(Technical Reports Series No. 398),2000(7章 電子線)
- [7]JCGM 100:2008(GUM):Evaluation of measurement data — Guide to the expression of uncertainty in measurement
確認日:2026年10月9日。05章の読み値と kQ は計算の形を示すための仮の値です。臨床の測定は原典と自施設の校正証明書に従ってください。






