乳房リニアックグラフィのCLD・MHD|肺と心臓を読む測り方とセットアップ修正パターン

RADITECH PRACTICAL SKILLS · BREAST RADIOTHERAPY
乳房リニアックグラフィのCLD・MHD
照射野の後縁で「肺と心臓」を読む ─ 測り方・数値の目安・ずれの対処
- Bornstein 1990 / Kong 2002 / Taylor 2009 準拠
- 接線照射(左右乳房)対象
- 最終確認 2026.09.26
「照射野は合ってる」のその先を読む
乳房の接線照射のリニアックグラフィでは、照射野の形だけでなく、後縁と胸壁の関係から肺と心臓の照射量を読み取れます。その物差しがCLDとMHDです。本記事では、原著論文の数値をもとに、現場で使える測り方と判断のしかたを図解します。後半では「浅い・深い」「猫背・反り」「腕の左右差」を画像のどこで見分けるか、論文でどこまで分かっているかを整理します。
- 01CLD=中心軸の高さで、照射野の後縁から胸壁の内側の縁までの距離。照射される肺の量の目安。
- 02MHD=照射野に入った心臓の影の最大の距離。左乳房の心臓線量の目安。
- 03CLD 1cmで肺は約10%、MHD 1cmで平均心臓線量は処方の約2.9%増える。
- 04計画DRRの値と同じ位置・実寸で比べ、ずれたら原因(回旋・腕・息止め)を直して再撮像。
- 05胸壁の線のどこが変わったかで原因を絞る。全体なら平行移動・回旋、頭尾で傾けば猫背・反り、頭側だけなら腕。
リニアックグラフィで何を見る?
CLD:照射される肺を1つの数字で
CLD(Central Lung Distance:中央肺距離)は、照射野の中心軸の高さで、照射野の後縁から胸壁の内側の縁(肺との境界)までを垂直に測った距離です。

| CLD | 照射される同側肺の割合(目安) |
|---|---|
| 1.5 cm | 約 6% |
| 2.5 cm | 約 16% |
| 3.5 cm | 約 26% |
CLDは単純な計測値の中で最も良い予測因子でした(r²=0.80、予測幅±7%程度)。CLDが1cm増えると、照射される肺はおよそ10%増えるイメージです。

Kong 2002では、従来型の接線照射で同側肺の平均線量(Gy)≒ CLD(cm)×4、20Gy以上かかる肺の体積(%)≒ CLD(cm)×10 という関係が出ているよ。
だから画像上の数mm〜1cmのずれを「照射野の形は合ってるから」で流しちゃいけないんだ。
線量の単位Gyと、被ばくの話でよく出るSvの違いは ミリシーベルトのたとえ話ガイド でまとめています。照射される肺の線量は、治療計画の段階で決まった値が毎日守られているかを画像で確かめる、という位置づけです。
似た指標にMLD(Maximum Lung Distance:照射野全体で最大となる距離)もあります。予測力はほぼ同じですが、測る位置が一定しにくいため、日常の確認ではCLDが使われます。
MHD:左乳房で心臓を読む
MHD(Maximum Heart Distance:最大心臓距離)は、照射野の後縁から、照射野に入った心臓の影の前方側の輪郭までを垂直に測り、最も大きくなる距離です。主に左乳房で問題になります。
| 報告 | MHDと心臓線量の関係 |
|---|---|
| Taylor 2009(左接線50例) | MHDが1cm増えるごとに、平均心臓線量が処方線量の約2.9%増加(50Gy処方なら約1.5Gy/cm) |
| Kong 2002(40例) | 平均心臓線量(Gy)≒ MHD(cm)×3 |

そう。それと深吸気での息止め照射(DIBH)だと、胸壁が前に出て心臓が離れるから、MHDが小さくなる。
逆に息止めが浅いとMHDが大きくなるから、胸壁の位置とMHDを見れば息止めが再現できているかも確認できるんだ。照射中の画像で連続確認する方法も報告されているよ(Doebrich 2018)。心臓の中でも左前下行枝(LAD)の線量も大事で、Taylor 2009ではMHDとLADの線量の関係も調べられているよ(心臓全体よりは弱い相関)。
線量管理 核医学と放射線治療の線量管理 計画CTのDRLやAAPMの推奨まで。治療の線量をどう管理するかの全体像。
論文ピック 機能的肺回避放射線治療のAI自動計画 肺の線量を減らす計画側の工夫。照合で見るCLDと合わせて読みたい。現場での測り方 6ステップ
現場では次の6ステップで確認します。照合画像の撮影や画像誘導の点数の考え方は放射線治療の診療報酬ガイドで整理しています。
| やること | ポイント | |
|---|---|---|
| 1 | 計画のDRRで基準値を確認 | 計画時のCLD(左乳房ではMHDも)を記録しておく。 |
| 2 | 撮像前にセットアップを照合 | 腕の挙上位置・ブレストボードの角度と高さ・体幹のねじれを計画時の写真と照合し、干渉確認を行う。 |
| 3 | 中心軸の高さで垂直に測る | CLDは照射野の中心軸の高さで、後縁に対して垂直に。MHDは心臓の影が最も前方へ張り出す所で測る。 |
| 4 | アイソセンター面の実寸で比べる | 画像の見かけの長さは拡大されている。計測値が実寸に換算されているか、施設の設定を確認しておく。 |
| 5 | 基準を超えたら原因を直して再撮像 | 改善しなければ上級者・医師へ報告する。許容差は施設で決める(論文で決まった値はない)。 |
| 6 | 記録して傾向を見る | 計測値と対応を記録。同じ方向のずれが続くなら、系統的な原因(体位・固定具)を疑う。 |
ずれたときの読み方と対処

| 所見 | 考えられる原因 | 対処 |
|---|---|---|
| CLDが計画より大きい (肺が深く入る) | 体幹の回旋・傾き、腕の挙上角度の違い、ブレストボードの設定違い | 原因を直して再セットアップ・再撮像 |
| CLDが計画より小さい (胸壁側が浅い) | 反対方向の回旋、体の前方へのずれ | 標的の深部が照射野から外れるおそれ。再セットアップ・再撮像 |
| MHDが大きい(左乳房) | 息止めが浅い(DIBH)、体幹の回旋 | 息止めの再指導・再撮像。改善しなければ報告 |
| フラッシュ不足 | 乳房の位置ずれ・腫れ | 乳房が照射野から外れるおそれ。報告 |
よくある落とし穴
- 照射野の形だけを見て、肺・胸壁の含まれ方を見ない
- CLDを中心軸以外の高さで測り、計画値と比べてしまう
- ずれの原因を分析せず、毎回の補正だけで済ませる
画像から読むセットアップ修正パターン

CLDが日によってどれだけ動くか、腕の固定具やボードの角度でずれがどう変わるか、を測った論文はたくさんあるよ。
でも「この見え方なら猫背」という対応表そのものを確かめた論文は、今回調べた範囲では見つからなかった。だから下の表は、照射野の形から考えた読み方の型として使って、原因は必ず患者さんの体位で確かめるんだ。
ずれの原因を絞るコツは、胸壁の線の「どこが」「どちら向きに」変わったかを見ることです。中心軸だけでなく、照射野の頭側の端と尾側の端でもCLDを比べ、胸壁の線と後縁が平行かどうか、皮膚側(フラッシュ)が変わっていないかを確認します。

| 型 | 画像での見え方 | 疑う原因 | 確認と修正 |
|---|---|---|---|
| ① 全体が深い/浅い | 頭側から尾側まで、CLDがほぼ同じ量だけ増減する。胸壁の線は後縁とほぼ平行のまま。 | 体の前後・左右への平行移動、体の長軸まわりの回旋(ロール)、ボードの高さ | 左右の側方マークと正中マークの高さを見直し、肩と骨盤の向きをそろえる。寝台の移動で直すか、体位を取り直すかは施設の手順に従う。 |
| ② 頭側と尾側で違う | 胸壁の線が後縁に対して傾く。片方の端だけCLDが大きい。 | 猫背・反り(ピッチ)、ボードの上で体が足側へずり落ちた、体のくの字(側屈) | 頭の位置・あごの上げ方・お尻の位置をボードの目盛りで計画時と合わせる。正中マークが頭尾方向に一直線かを見る。 |
| ③ 頭側だけ違う | 頭側の胸壁・腋窩の軟部組織・上腕骨頭の写り方が変わる。中心軸から尾側はほぼ計画どおり。 | 腕の挙上角度、肘の高さ、肩の高さの左右差、グリップを握る位置 | 腕の固定具の目盛り、肘の位置、肩の力が抜けているかを計画時の写真と照合する。 |
| ④ 胸壁は同じで皮膚側だけ違う | CLDは計画どおりだが、乳房の輪郭が照射野の前方の縁に近づく、またははみ出す。 | 乳房の腫れ(術後のむくみ・漿液腫)、体重の変化 | 体位の問題ではない。フラッシュ不足やはみ出しは医師・物理担当へ報告する(計画の見直し対象になりうる)。 |
| ⑤ 左乳房でMHDだけ大きい | 胸壁が計画より後ろにあり、心臓の影が大きく入る。 | 息止めが浅い(DIBH) | 息止めの練習と声かけを見直して再撮像。改善しなければ報告。 |
傾きの向きは施設ごとに一度確かめる
- 型②で「頭側が深い」のが猫背なのか反りなのかは、画像の表示向き・ガントリ角度・ボードの角度で変わる。
- 自施設の画像で「あごを上げると胸壁の線はどちらへ傾くか」を一度確かめておくと、次から迷わない。
- 1枚の画像で原因は決められない。画像は「どこを見直すか」を教えてくれるもので、答えは患者さんの体位にある。
- CLDは日によって動き、照射中はほとんど動かない。8例・1,709枚の解析では、照射中のCLDの変動は最大0.25cmで、日ごとの変動のほうが大きかった(Smith 2005)。照射中は約1mm、日ごとは約2mm(1SD)という報告もある(van Tienhoven 1991)。
- まれに大きくずれる日がある。20例の前向き研究では、変動の多くは3mm以下(1SD)だったが、最大22.9mmのずれも見られた(Lirette 1995)。13例の研究では、CLDを95%の確率で収めるのに7.7mmのマージンが必要とされた(Fein 1996)。
- 腕の位置は直す必要がよく出る。リンパ節領域を含む113例では、画像を見て腕の位置を直す必要が少なくとも1回あった患者が約6割で、固定具の種類でも骨の位置のずれ方が変わった(Kapanen 2016)。
- 体格・乳房の大きさ・ボードの角度で、ずれ方が変わる。大きい乳房ではCLDのばらつきが大きく(Raza 2016)、傾斜0°のボードではBMIと後方向の誤差が強く相関した(Costin 2025)。
- 回旋、とくに「猫背・反り」方向は線量に効く。80例の計画で回旋を再現した研究では、1軸だけの回旋ではピッチ方向が線量のずれを起こしやすかった(Liu 2025)。左乳房のDIBHでは1°以上の回旋で心臓とLADの線量が増えるため、1°以上の補正が勧められている(Heikkilä 2024)。
照射野を体に合わせない
- 31例・510枚の解析では、技師が皮膚のマークに合わせようとして照射野の大きさや角度を少しずつ変えていたことが、ばらつきの原因になっていた(Creutzberg 1993)。
- 直すのは照射野ではなく体の位置。計画を変える判断は医師・物理担当が行う。

そう。中心軸のCLDだけ見て「合ってる」で終わると、③の型は見逃しやすいんだ。上の端と下の端もひと目見るクセをつけよう。
3Dの位置合わせが中心の施設でも、この型は役に立つよ。IGRTの幾何学的な不確かさの考え方は論文ピックでも取り上げているから、あわせて読んでみて。
直す?様子を見る?系統誤差と偶然誤差
ずれを見つけたら、次は「今すぐ直すか、次回まで様子を見るか」です。ここで役に立つのが、毎回同じ向きに出るずれ(系統誤差)と、日によって向きが変わるずれ(偶然誤差)を分ける考え方です。
| 状況 | 考え方 | 対応 |
|---|---|---|
| 同じ向きのずれが続く | 系統誤差を疑う。毎回の補正だけでは、同じずれを毎日つくり直しているのと同じ。 | 計画時の写真、固定具の設定値、マークの位置を見直す。マークの描き直しは医師・上級者と相談する。 |
| 1回だけ大きくずれた | 偶然誤差の可能性。その日の体位の取り方の問題が多い。 | 体位を取り直して再撮像。次回も同じ所を確認する。 |
| 許容を大きく超える/原因が分からない | 体位では説明できない変化(腫れ・体重変化)も考える。 | 照射の前に上級者・医師へ報告する。 |
- 20例・2,200枚超のEPID画像を使った研究では、CLDのずれのうち系統誤差とみられる部分だけを補正する手順を検討し、その施設の条件では「標準偏差の2倍を超えたら補正、補正なしで続ける測定は最大2回まで」が、労力と精度の釣り合いが良かった(Pouliot 1996)。
- 初回の照合画像は、約9割の場合で、その後の毎日のセットアップを代表していた(McGee 1997)。裏を返せば約1割は代表していないので、初回だけで安心しない。
- 乳房の偶然誤差の大きさは、報告によって1.7〜14.4mm(1SD)と幅が大きい(Hurkmans 2001)。他施設の数字をそのまま許容値にせず、自施設で測って基準を作る。
許容値や補正ルールは、透過線量測定(in vivo dosimetry)と同じく施設の品質管理の一部です。治療装置の立ち上げや出力の確認とあわせて、AAPM TGレポートのような一次資料で考え方をそろえておくと、医師・物理担当と話が早くなります。照合の手間は人員配置にも直結するので、放射線治療の経営戦略の記事も参考になります。

そのとおり。直した量を記録しておけば、「毎回同じ向きに5mm」みたいな傾向が見えてくる。そこまで来たら、原因は体位の取り方か、計画時の状態のほうにあるんだ。
寡分割照射で回数が少ないほど、1回のずれの重みは大きくなるから、なおさら初回からていねいに見ておきたいね。
品質管理 治療技師が最初に読むべきAAPM TGレポート厳選5選 TG-51からTG-100まで。施設の許容値や手順を決めるときの一次資料。
論文ピック BIR 2020 IGRTガイドラインで施設のマージンを決める 系統誤差と偶然誤差からマージンを出す考え方を、実際の研究で確認する。注意点と限界
CLD・MHDを使うときの注意

数字の意味がわかると、リニアックグラフィが「照射野の確認」から「肺と心臓の線量の確認」に変わるよ。明日から中心軸でCLDを測ってみよう。心臓への線量を減らす工夫は心臓を狙う定位照射の標的設計の考え方ともつながっているよ。
よくある質問
CLDは内側と外側、どちらの画像で測ればいいですか?
計画値を記録したのと同じ門・同じ高さで毎回測ることが大切です。2つの接線は後縁がそろうように組むので近い値になることが多いですが、比べる条件がそろっていないと、ずれを読み違えます。
CLDの許容値は何mmですか?
論文で決まった値はありません。13例の研究でCLDを95%の確率で収めるのに7.7mmのマージンが必要とされた報告(Fein 1996)などは参考になりますが、固定具・画像の条件・照射法で変わります。医師・物理担当と施設基準として決めます。
CBCTや体表面画像があれば、リニアックグラフィは要りませんか?
3D画像や体表面画像誘導(SGRT)でも位置や回旋は確認できます。ただ、接線照射では照射野と胸壁・肺の関係をそのまま見られるのがMV画像の強みです。どの画像をいつ撮るかは施設の手順に従います。
右乳房でもMHDを見ますか?
右乳房では心臓が照射野に入りにくいため、主に見るのはCLDです。ただし体格や胸郭の形によっては入ることもあるので、計画DRRで心臓の影がないかは確認しておきます。
猫背の患者さんで、どうしても計画時と同じ姿勢にならないときは?
無理に合わせ続けず、上級者・医師に相談します。計画時と姿勢が大きく違うまま照射を続けるより、固定具の調整や計画の見直しを検討するほうが安全です。
参考文献
Bornstein BA, et al. Can simulation measurements be used to predict the irradiated lung volume in the tangential fields in patients treated for breast cancer? Int J Radiat Oncol Biol Phys. 1990;18(1):181-187.
Taylor CW, et al. Estimating cardiac exposure from breast cancer radiotherapy in clinical practice. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2009;73(4):1061-1068.
Doebrich M, et al. Continuous breath-hold assessment during breast radiotherapy using portal imaging. Phys Imaging Radiat Oncol. 2018;5:64-68.
van Tienhoven G, et al. Accuracy in tangential breast treatment set-up: a portal imaging study. Radiother Oncol. 1991;22(4):317-322.
Lirette A, et al. The role of electronic portal imaging in tangential breast irradiation: a prospective study. Radiother Oncol. 1995;37(3):241-245.
Raza W, et al. Comparison of set-up errors by breast size on wing board by portal imaging. Rep Pract Oncol Radiother. 2016;21(5):447-452.
Costin IC, Marcu LG. Impact of immobilization system angle, body mass index and breast size on breast radiotherapy accuracy using EPID-only setup. Heliyon. 2025;11(3):e42176.
Heikkilä A, et al. Dosimetric effect of rotational setup errors in volumetric modulated arc therapy and field-in-field treatment of left-sided breast cancer. Phys Med. 2024;117:103203.
Creutzberg CL, et al. Quality assurance using portal imaging: the accuracy of patient positioning in irradiation of breast cancer. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 1993;25(3):529-539.






