TG-142とJASTRO QAガイドラインの違い|リニアックの精度管理を2冊でどう組むか

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TG-142とJASTRO QAガイドラインの違い|リニアックの精度管理を2冊でどう組むか
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先に結論:2冊は対立せず、役割を分けている
米国医学物理学会(AAPM)のTG-142と、日本放射線腫瘍学会(JASTRO)の『外部放射線治療におけるQAシステムガイドライン2016年版』は、どちらかを選ぶものではありません。2016年版の冒頭に、TG-142の新しい規準を取り入れたと書かれています。
治療部門に異動して3か月のLINAの疑問に、ラッコ先輩が対話形式で答えていきます。

ラッコ先輩、朝の出力チェックの記録用紙には「TG-142準拠」と書いてあるのに、部門のQA手順書の根拠はJASTROのガイドラインになっています。日本の施設ならJASTROだけ見ればいいのではないですか?
この整理を一枚にすると、次の3段になります。下の段ほど細かい話で、上の段が下の段の置き場所を決めています。
2冊を並べて比べる
同じ「QAの指針」でも、書かれている範囲と粒度がまったく違います。表は両方の原文から読み取れる範囲で作りました。
| 項目 | AAPM TG-142 | JASTRO QAシステムガイドライン2016 |
|---|---|---|
| 発行 | 米国医学物理学会(AAPM)のTask Group報告。Medical Physics誌2009年 | 日本放射線腫瘍学会(JASTRO)QA委員会。2016年版(2000年版の改訂) |
| 対象 | 医療用加速器(リニアック)本体と、付属するウェッジ・MLC・画像照合装置 | 外部放射線治療の部門全体。装置だけでなく、治療計画・位置照合・臨床の流れ・記録まで |
| 構成 | 毎日・毎月・毎年の表と、ウェッジ・MLC・画像の専用表(計6表) | 総論・物理QA・臨床QAの3部構成 |
| 許容値の示し方 | 多くの項目を、受入れ時に決めた基準値からの変化(不変性)で示す | 個別の数値はTG-142などを参照。許容レベル・介入レベルの考え方と、施設独自の値への移り方を書く |
| 装置の用途 | 非IMRT・IMRT・SRS/SBRTの3種で許容値を変える | 高精度治療は要点だけを書き、詳細はIMRT・IGRT・呼吸性移動対策などの個別ガイドラインに任せる |
| 体制の話 | QAチームの作り方、手順の整備、教育、文書化、エンドツーエンド試験に触れる | QA委員会の構成、施設規模別の体制、第三者監査、リスクマネジメント、過誤照射時の対応まで詳しい |
| 入手 | Medical Physics誌で無料公開(英語) | JASTROの公式サイトでPDFを無料公開(日本語) |
TG-142の出発点は、1994年のTG-40です。TG-142は、TG-40の表を新しい装置に合わせて更新することと、非対称ジョー・MLC・ダイナミックウェッジの管理項目を足すことを任務としていました。結果として、kVのX線画像、EPIDによるMV画像、コーンビームCTといった、リニアックに載っている画像装置の管理まで含む表になっています。
「米国・国際」はAAPMの報告と実務指針、「日本」は国内の学会の指針と計測法。点に触れると正式名が出ます。
一方のJASTRO 2016は、まえがきで「各照射方法個別の記載は、それぞれ対応するガイドラインに任せ、本書では品質管理の本流部分を記載する」と方針を述べています。個別技術の指針を束ねる、目次のような役割も持っている文書です。他のAAPM報告との位置づけは、治療技師が最初に読むTGレポート5選で整理しています。
TG-142の骨格:頻度の表と、用途で変わる許容値
TG-142の本体は6つの表です。毎日・毎月・毎年の3表に、ウェッジ・MLC・画像の専用表が付きます。許容値の列は装置の用途ごとに分かれていて、同じ項目でも定位照射に使う装置ほど厳しくなります。
用途で許容値が変わる例
同じ項目でも、IMRTや定位照射に使う装置では許容値が締まります。代表的な数値を原文の表から拾いました。数値はTG-142の表の値で、施設の値をそのまま決めるものではありません(理由は06章で説明します)。
単位はmm。寝台位置の表示は角度(1°/0.5°)も同時に決まっています。アイソセンタの一致は基準値からのずれ。
| 項目(頻度) | 非IMRT | IMRT | SRS/SBRT |
|---|---|---|---|
| X線出力の不変性(毎日) | 3% | 3% | 3% Table I |
| レーザー位置(毎日) | 2 mm | 1.5 mm | 1 mm Table I |
| 寝台位置の表示(毎月) | 2 mm/1° | 2 mm/1° | 1 mm/0.5° Table II |
| 放射線と機械的アイソセンタの一致(毎年) | ±2 mm | ±2 mm | ±1 mm Table III・基準値から |
| 出力の校正(毎年) | ±1%(絶対値)Table III・TG-51による校正 | ||
毎日・毎月は基準値に対する不変性、毎年はTG-51による校正(絶対値)。毎月の2%はバックアップモニタ線量計の不変性と共通です。
X線出力の許容値は、毎日3%、毎月2%、毎年の校正で±1%と、頻度が下がるほど細かくなります。毎日の点検は簡易な測定器で「大きく外れていないか」を見るもので、年1回の校正は計測プロトコルに沿って電離箱で絶対線量を決め直すものです。精度の違う2つの測定を、頻度を変えて組み合わせているわけです。日本の校正プロトコルは、線量計を⁶⁰Coで校正していれば標準計測法12、医療用リニアックで校正していれば2024年に出たリニアック標準計測法24と、校正の種類で使い分けます。TG-142の「TG-51」の欄は、施設が使う国内の計測法に読み替えます。補正係数の計算は標準計測法12の実践編にまとめています。
MLCと画像は専用の表で見る
MLCの表(Table V)では、IMRTを行う装置にだけ毎週の定性試験が置かれています。リーフを並べて照射するピケットフェンスの画像を目で見て、リーフ間の透過が増えていないかなどを確かめます。毎月はIMRT照射野のリーフ位置精度を4方向のガントリ角度で1 mm、毎年はMLCの透過率を基準値から±0.5%で見ます。
画像の表(Table VI)は、照合装置の座標と照射の座標が一致しているかを毎日確かめ、画質(空間分解能・コントラスト・均一性とノイズ)は毎月、基準値と比べる構成です。画像照合の運用そのものは国内のIGRTガイドライン2022が詳しく、TG-142の画像の表とあわせて読むと抜けが減ります。
JASTRO 2016の説明を計算で描いたもの。ずれ(mm)=速さ20 mm/s×遅れ(秒)。100 msで2 mmに届きます。
基準値と不変性:「合格」ではなく「変化」を見る
TG-142を読むうえで一番大事なのが、許容値の多くが「基準値からの変化」で書かれていることです。基準値は装置を受け入れたときに決まり、その後の点検はすべてそこからのずれを測ります。
TG-142は、受入れ試験とコミッショニングが、その後のビーム性能を測るときの基準値(ベースライン)を決めると書いています。たとえば平坦度と対称性は、コミッショニングで決めた照射野の中心80%の範囲で、基準値から表の許容値以上に動いていないかを見ます。JASTRO 2016も同じ考え方で、基準値を装置の「安全基準」ともいうべき値と呼び、装置のQA/QCは受入れ試験の時点から始まっていると強調しています。
メーカーが提供するビームデータを、施設での実測の代わりにしてよいかという議論もあります。コミッショニングの測定手順はTG-106にまとまっていて、基準値づくりを省かないことが定期管理全体の前提になります。電子線の基準値づくりで迷いやすい相互校正は、標準計測法12の電子線編で解説しています。
是正行動の3段階:許容値の内側でも動くとき
TG-142は、測定結果に応じた行動を3段階に分けています。JASTRO 2016も同じ3段階をほぼそのまま採用しています。ポイントは、許容値を超えていなくても行動が必要な場面があることです。
レベル1は見落とされがちです。記録用紙に許容値だけを書いて「範囲内なら丸」という運用にすると、レベル1の変化を拾う仕組みがなくなります。TG-142は、人の交代やセットアップの変更、保守作業のあとに値がずれることがあると注意しています。測定値の推移をグラフで残しておくと、こうした変化が目で見えるようになります。
装置が止まったときの初動と、止まった時間が部門の収益に与える影響は、リニアックが朝起動しなかった日の判断基準で整理しています。レベル3は「止める」と決める判断なので、誰が止める権限を持つかを手順書で先に決めておきます。連絡の文面は申し送り・多職種連絡の型が使えます。
許容値は施設で育てる:統計的工程管理への移り方
TG-142の表の数値は、全施設にずっと当てはめる値ではありません。JASTRO 2016ははっきりと、一般的な参考値であって恒久的な指標ではないと書いています。
JASTRO 2016によると、TG-142の許容レベルは「線量に関する全体の不確かさ±5%」「空間的な全体の不確かさ±5 mm」を達成するための基準として作られています。装置を入れた直後はTG-142の値で管理してよく、装置が安定して動く時期に入ったら、それまでの記録を統計的工程管理(SPC)などでさかのぼって解析し、装置の仕様と測定器の精度に合った施設独自の許容レベルを決める必要がある、という流れです。
測定値のばらつきが正規分布に従うと仮定した模式図。±2σの内側に約95%、±4σの内側にほぼすべての測定値が入ります。
JASTRO 2016は2つの線の引き方も示しています。許容レベルは、平均から標準偏差の2倍の幅(2シグマ)で、データの95%が入る範囲です。介入レベルは許容レベルの2倍(4シグマ)に置くことが多く、ここを超えたら異常が起きていると判断します。ただし統計だけで決めるのではなく、その範囲の中に治療に必要な線量と位置の精度が収まっていることも条件になります。記録のばらつきが小さければ、TG-142の表より狭い範囲で管理することもできます。
TG-142に書いていないこと:別の文書で埋める
TG-142は装置の表としては充実していますが、部門のQAに必要なことを全部書いているわけではありません。抜けている所を、どの文書で埋めるかを整理します。
第三者による出力線量の確認は、国内ではガラス線量計を郵送する方式が事業として行われています。JASTRO 2016の時点の記載では、がん診療連携拠点病院の指定要件にもなっていました。現在の要件は最新の指定要件で確かめてください。第三者の測定については、2023年にJASTROから専用のガイドラインも出ています。
患者ごとの検証で使うガンマ解析は、TG-142の装置の点検とは別の層のQAです。装置が許容値の内側でも、計画と照射の組み合わせで差が出ることがあるので、両方が必要になります。照射中の線量を測る取り組みは透過線量測定プログラム導入の教訓でも紹介しています。
TG-198:TG-142を「どう測るか」まで落とした実装ガイド
TG-142は「何を、どの頻度で、どの許容値で」までを決めた報告で、測り方の細部は書いていません。2021年に出たTG-198は、その隙間を埋めるために作られました。任務は3つで、TG-142の試験を行うための具体的な手順、試験にかかる時間・担当者・必要な資格の目安、毎日・毎週・毎月・毎年の記録様式の例を示すことです。
手順書を一から書くより、TG-198の手順と様式を下敷きにして自施設の器具に合わせるほうが早く、抜けも少なくなります。所要時間の目安が書いてあるので、QAに必要な人員と時間を上司や病院に説明する材料にもなります。放射線治療の専門技師を目指す人には、放射線治療専門放射線技師の教材ガイドとあわせて読むと、試験と実務の両方に効きます。
手順書の組み立て方:決めたいことごとに見る文書を決める
QAの手順書を作り直すとき、1冊のガイドラインで全部を決めようとすると必ず行き詰まります。決めたいことごとに、見る文書を割り当てるのが近道です。
濃い色が「まず見る文書」、淡い色が「補う文書」。下の表と同じ内容を一覧にしたものです。
| 決めたいこと | まず見る文書 | 補う文書 |
|---|---|---|
| 部門のQA体制・委員会・記録 | JASTRO QAシステムガイドライン2016(総論) | TG-142のQAプログラムの章 |
| 基準値を採用してよいか | JASTRO 2000年版の許容値(2016年版の整理による) | 受入れ試験の記録・TG-106 |
| 毎日・毎月・毎年の点検項目と許容値 | TG-142の6表(装置の用途で列を選ぶ) | JASTRO 2016の2.4治療装置の品質管理 |
| 点検の手順と記録様式 | TG-198 | MPPG 8.b・メーカーの試験手順 |
| 出力の校正 | 標準計測法12・リニアック標準計測法24 | TG-51・IAEA TRS-398 |
| IMRT・IGRT・呼吸性移動・定位照射 | 国内の各技術のガイドライン | TG-218・TG-179など |
| 施設独自の許容値 | JASTRO 2016(許容レベル・介入レベル・SPC) | 自施設の測定記録 |
国内の技術別ガイドラインの多くはJASTROの公式サイトで無料公開されています。部門ガイドライン書庫では、国内の指針と主題が近い海外の指針を対応づけて並べているので、手順書の根拠を探すときの入口に使ってください。IMRT物理技術ガイドラインや呼吸性移動対策ガイドラインも、そこから原文に飛べます。
よくある思い込み
- 「TG-142は米国の文書だから日本の施設には関係ない」:JASTRO 2016自体がTG-142の規準を取り入れて書かれている。JASTRO 2016に沿って作った手順書は、間接的にTG-142を根拠にしていることになる
- 「許容値の内側なら何もしなくてよい」:いつもの値から急に動いたら、許容値の内側でもレベル1の点検が必要になる
- 「TG-142の数値をそのまま施設の基準にすれば安心」:表の値は導入直後の出発点。安定稼働期に入ったら、自施設の記録から値を決め直すことが求められている
- 「年1回の校正をしていれば毎日の点検は形式でよい」:精度の違う測定を頻度で組み合わせて初めて、日々の変化と長期のずれの両方を拾える
治療部門のQAの仕事は、装置の性能を数字で守る仕事であり、部門の安全を文書で守る仕事でもあります。治療部門でのキャリアを考えている人は、放射線治療専門施設への転職で求められるスキルも参考にしてください。他の指針とあわせた全体像は、技術と精度のピラーにまとめています。
あわせて読みたい
本記事のまとめ
- TG-142とJASTRO QAシステムガイドライン2016は役割分担の関係。2016年版はTG-142の新しい規準を取り入れて書かれている。
- JASTRO 2016は部門全体のQAの枠組み、TG-142は装置の定期管理の表、TG-198は測り方の手順と記録様式を受け持つ。
- TG-142の許容値の多くは基準値からの変化(不変性)。基準値は受入れ試験とコミッショニングで決まり、その採用判断にJASTRO 2000年版の許容値を使う。
- 是正行動は点検・定期点検・即時の行動の3段階。許容値の内側でも、いつもの値から急に動いたら点検する。
- 表の許容値は導入直後の出発点。安定稼働期に入ったら記録を統計的工程管理で解析し、施設独自の許容レベルと介入レベルを決める。
- 線量計の校正、第三者確認、QA委員会、VMAT、専用装置、患者ごとの検証はTG-142の外。JASTRO 2016・TG-198・TG-218・国内の技術別ガイドラインで埋める。
参考文献
- [1]Klein EE, et al. Task Group 142 report: Quality assurance of medical accelerators. Med Phys. 2009;36(9):4197-4212.
- [2]Hanley J, et al. AAPM Task Group 198 Report: An implementation guide for TG 142 quality assurance of medical accelerators. Med Phys. 2021.
- [3]日本放射線腫瘍学会QA委員会編『外部放射線治療におけるQuality Assurance(QA)システムガイドライン2016年版』(PDF)
- [4]Miften M, et al. Tolerance limits and methodologies for IMRT measurement-based verification QA: Recommendations of AAPM Task Group No. 218. Med Phys. 2018.
- [5]Krauss RF, et al. AAPM Medical Physics Practice Guideline 8.b: Linear accelerator performance tests. J Appl Clin Med Phys. 2023.
- [6]日本医学物理学会『リニアック標準計測法24』(2024年3月・PDF)
- [7]日本放射線腫瘍学会『放射線治療における第三者機関による出力線量測定および評価に関するガイドライン2023』(PDF)
TG-142・TG-198・TG-218はAAPMの報告書ページから開けるMedical Physics誌の無料公開版、JASTRO 2016は公式PDF(JASTRO公認ガイドライン一覧で2016年版が最新であることも確認)を2026年10月4日に確認しました。表の数値はTG-142の原文の表から引いたもので、施設の許容値をそのまま決めるものではありません。手順書に引用するときは、必ず原文の表と注記で確かめてください。





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